缶の履歴書

長年の間、一見して何の変化もないように見えるスチール缶には、絶え間なくさまざまな技術開発の成果が活かされ、その品質は着実に向上している。
スチール缶の改良・改善は製缶技術の進歩だけでなく、鉄鋼メーカーにおける原板(鋼板)製造やめっき法など、材料分野の技術革新なくして実現できない。
そこで今号から3回にわたり、スチール缶の高品質化を支える材料技術にスポットを当てて、開発のエポックメイクや最先端の技術をご紹介する。第1回目は、欧米から技術導入したノウハウを昇華させて、独自技術を確立した日本の材料開発の歴史を簡単に振り返ってみよう。

原板の製造法とめっき法がスチール缶材料のキーテクノロジー

軽くて強く、クリーンなスチール缶。この薄い板をつくるために、日本の鉄鋼メーカーは長年たゆみない技術開発に挑み、今日の高品質なスチール缶材料をつくり上げてきた。

錫めっきを施した鋼板、「ブリキ(錫めっき鋼板)」が缶用材料として使われ始めたのは19世紀初頭。その後、食品保存の手段としてヨーロッパを中心に普及してきた。

日本では1877年、北海道で缶詰生産が始まったが、当時、缶の材料は全て輸入に頼っていた。本格的なブリキ製造が始まったのは、1923年(大正12年)、官営八幡製鐵所において、ドイツ人技師の指導のもと国産ブリキ製造に成功してからである。それ以降80年にわたって日本における缶用材料の開発史が刻まれてきた。

缶用材料開発の幕開けとなった1920年代当時の原板のつくり方は「プルオーバー式」という、いまでは全く姿を消した製造法だ(写真1)。
シートバーと呼ばれる材料を加熱炉に入れて加熱した後、2枚重ねてロールで圧延し、さらにヤットコという道具を使って半分に折り畳み4枚重ねて圧延して徐々に薄くしていく工程を繰り返し、最後に所定の寸法に切って1枚ずつ剥ぎ取る。

一方、めっき法は“どぶ漬け”と呼ばれる「熱漬法」。
溶けた錫が入った槽に板を浸してめっきを付け、腐食を防ぐ方法である(写真2)。当時のブリキ製造は、全て人力による高温下の作業であり、特に夏場の工場内の環境は非常に過酷で、裸に高下駄といったスタイルで作業が行われていた。

以後、缶用材料の技術開発史は、原板の「製造技術」における板厚精度の向上や省力・省工程化と、「めっき技術」における低コスト・高品質化への挑戦の軌跡と言える。

■原板製造/圧延技術の進歩と製造の連続化によって発展

原板製造は1930年代中頃になると、特に圧延技術がアメリカを中心に大きく変化してきた。そのエポックメイクとなったのが、熱間と冷間による連続式圧延技術の登場である。

加熱した鋼片をロールの間に高速で通して圧延し(連続熱間圧延)、さらにそのコイル状の鋼帯をロール間に通し超高速で連続的に圧延してコイル状の薄い鋼帯をつくる(連続冷間圧延)ものだ。

日本では1940年、日本製鐵(現・新日鉄)の八幡製鉄所がアメリカから連続圧延機を導入して、日本初の冷間圧延ミルをつくり板厚精度の向上と大量生産を可能にした。この設備は、今日まで地道に開発されてきた冷間圧延関連技術の礎となり、20世紀を代表する多くの製鉄技術がこの設備から誕生した。

設備完成時は、不幸にも第2次世界大戦が勃発し、アメリカの対日屑鉄輸出禁止や資産凍結などの影響もあって厳しい船出となったが、戦後になると、圧延の力を精密に制御して板厚精度を高める「油圧圧下装置」や緻密な駆動制御を可能にする「サイリスタ制御技術」、精度の高い「形状制御技術」など多彩な要素技術を開発し、缶用材料の高品質化と品質の均一化を実現してきた。

1970年代には、圧延するコイル材同士を溶接してつなぎ、停止せずに連続的に圧延処理できる、世界初の完全連続ミルが登場(NKK)した。これによって、作業効率や歩留の向上と、製造工期の短縮が実現した。いまでは国内の主な圧延機は完全連続化されている。

また、さらに画期的なものは「連続焼鈍技術」である。連続焼鈍とは、連続冷間圧延でできたコイル状の鋼帯を、連続的にほどきながら高温炉の中を通して焼きなますもので、この工程によって、均一な品質と強度、加工性、成形性に優れた材料をつくることができる。

1982年に新日鉄が世界に先駆け操業を開始した、薄くて強く、深絞りに適した柔らかい缶用材料をつくる連続焼鈍設備「ブリキCAPL」(写真3)は、薄い材料を高速で連続的・安定的に通板することで、電気清浄、焼鈍、調質圧延、検査・精整といった製造工程を一つのラインに統合し、全幅全長均一な品質を実現するとともに、従来1週間かかっていた製造期間を数分にまで短縮した。革新技術によって、スチールがアルミを凌ぐ品質と生産性を確立した瞬間である。

現在では、こうした先端的な製造ラインに合わせて、材料内部の欠陥検出や表面疵検査をはじめ、自動化センサー技術を駆使した品質保証機器も充実しており、消費者が安心して手にできるスチール缶の高品質化を支え続けている。

被災地に、世界の人々に、ふんわり焼きたてのパンを

一方、どぶ漬けから始まっためっき技術については、もともと錫が可採埋蔵量1,000万トンという貴重な金属であることに加えて、1950年代、みかん缶詰などの輸出用食糧缶詰や飲料缶の需要拡大とともに錫の価格が高騰して低コスト化ニーズが強まり、高価な錫めっきの“どぶ漬け”ではない新たな手法が模索された。

その結果1955年、八幡製鐵(現・新日鉄)が錫の使用量を削減できる電気ブリキ設備をアメリカから導入。品質が均一で表面がきれいな電気ブリキは、従来の3分の1以下の薄さで錫めっきを被覆できることから大幅なコストダウンを可能にし、その後のさらなる耐食性向上への努力も実を結び、1960年代には輸出によって世界での評価を高めていった。

そして1960年代中頃には、遂に世界に誇るべき日本の独自技術「錫無しブリキ」(TFS/Tin Free Steel)が誕生した。世界各国が錫めっき鋼板に替わる材料を模索する中で、日本独自のクロムめっき方式によるTFSを開発したのである。

厚さ200~300ミクロンの鋼板の上に、紙幣の厚さの約1000分の1に相当する0.1ミクロン以下の極薄の膜をつくるという、まさに極限世界の技術だ。塗装やフィルムラミネートとの組み合わせで、きわめて高い耐食性を誇るとともに、耐熱性や耐薬品性、加工性、印刷効果など缶用材料に求められる機能を満足させる画期的な技術である。この技術は世界各国に移転され、今日では世界的に、電気ブリキとTFSの2大技術がめっき技術の主流となっている。

日本の鉄鋼業は、欧米の基本技術の導入をベースに、ブリキCAPLやクロムめっき方式のTFSなど、独自技術を次々に開発してきた。その背景には、机上実験から考察、パイロットラインでの試作といった、一貫した研究開発に尽力した多くの技術者の情熱と努力がある。その情熱と歩みはいまも止まることなく、環境対応など21世紀の新たな時代要請に対しても、高度な技術開発を通して応え続けている。

次回からは環境対応やさらなる軽量化など、21世紀の新たなテーマに向けて開発に挑むスチール缶材料の最先端技術をいくつかご紹介しよう。