缶の履歴書

「容器包装リサイクル法」が、飲料缶などを対象に施行されてすでに6年が経つ。いま確実にリサイクルに対する意識が高まる中で、飲料製造、流通、消費を除く、資源採掘・採取から廃棄・リサイクルまでの工程を対象に(図1)、資源・用水・エネルギーの消費と、廃棄物・有害物質の排出などの地球環境に対する負荷を総合的に評価するLCA基礎調査をスチール缶業界として行った。その中で、スチール缶スクラップは、缶としてのリサイクルのみならず、鉄鋼材料全体の循環の中で鉄源として利用されている点を特に高く評価している。シリーズ「材料技術の挑戦」の最終回では、スチール缶のLCA評価が高い理由を、素材としての特性、技術の観点から紹介する。

完全に生まれ変わる“鉄” ー100%マテリアルリサイクル

スチール缶に用いられる鉄の素材は、自動車や建材などと同じ炭素鋼(鉄と炭素からなる鋼)だ。特に、スチール缶に使用される鋼(はがね)は不純物が少なく清浄度が高い。そのスチール缶を鋼材として再生させるとき、硬い、軟らかいなどの鋼材特性を付与する精錬段階で、1,650℃にも及ぶ高温下で酸素を吹き込んで溶解する。その際に、たとえ他の金属などの不純物が多少混入しても、ほとんどは酸化・除去されて、ピュアな鋼だけが残る。

つまり、スチール缶は“何度使っても再び何にでも生まれ変わる”100%マテリアルリサイクルできる材料なのだ。いまスチール缶リサイクルの大半は、小ロットの多品種生産に適している電炉の鉄源となるが、よく「スチール缶スクラップを電炉で精錬すると製品としての鉄の品質が落ちるのでは」という話を聞く。しかしそれは用途に合わせた製品が生産されているだけであり、間違いだ。さらに、電炉でつくられた鋼を次のサイクルで転炉原料として用いることで、再びスチール缶用の鉄鋼製品として生まれ変わることができる。

こうして、スチール缶からリサイクルされた鉄は、スチール缶に戻るだけでなく、品質要求の高い自動車用鋼板等に姿を変えることも可能だ。全国に81ヵ所もある製鉄工場(電炉、高炉、鋳物工場)では、年間でレインボーブリッジ20本分のスチール缶スクラップが、貴重な鉄源としてさまざまな鉄鋼製品に形を変え、再び世の中で活躍している。このように、鉄鋼材料全体の循環の中でリサイクルされていることが、スチール缶の強みだ。

86.1%の高いリサイクル率 ー支えた設備技術のエポックメイク

資源としての“鉄”の大きな循環があるからこそ、いまスチール缶のリサイクル率は86.1%(実態リサイクル率92.9%)という高い実績を誇っている。しかし、不明のスチール缶が大量に埋め立てされた事実がない中で、残り約14%のスチール缶(132千トン)はどこに行ったのだろうか。原因の一つは、不燃ゴミなどから磁力選別されるときに、その他の鉄スクラップ(シュレッダー屑)に含まれてしまうことにある。例えば、磁力による選別が容易であることから、不燃物としてスチール缶を収集している福岡市の場合は、破砕した不燃ゴミから得られた鉄について、「その他の鉄スクラップ」として扱うケースがある。缶スクラップではない他規格に混入したものは、スチール缶のリサイクル量として換算されないのだ(写真2)。全国でこのようなケースが100千トンオーダーで存在すると推定されることから、実際は90%以上(92.9%と推定)がリサイクルされているという見方もある。

これほど高いリサイクル率を実現した陰には、選別が容易で分別収集と受け皿が整備されていることに加えて、実はさまざまな“技術革新”があった。その中でも大きなインパクトとなったのが、1993年、新日鉄広畑製鉄所で世界で初めて実用化された新たな製鋼技術「冷鉄源溶解法(SMP:ScrapMelting Process)」(写真3)だ。この溶解法は、鉄鉱石を炭素で還元(鉄と結び付いた酸素を取り除く)して鉄分を取り出す「高炉法」に変わる新たなプロセスで、製鉄所で発生するスクラップのみならず、市中のスクラップといった文字通り加熱されていない“冷たい鉄源”で鋼(炭素が少ない粘りのある強靭な鉄)をつくる。また、原料となるスクラップの形状制約もなく、製品毎に原料配合を変えることができる。さらには、強力に攪拌されるため、微炭粉以外のさまざまな固形燃料が使用できる。

こうした理由から「冷鉄源溶解法」は、スクラップリサイクルに非常に適した精錬技術だと言える。同製鉄所では現在、周辺の自治体から回収したスチール缶や鉄屑が原料の半分以上を占めるほど、貴重な鉄源となっている。

省エネ・リサイクル社会への貢献 ー期待される鉄鋼業のインフラ

シリーズ「材料技術の挑戦」の最終回にあたって、改めてスチール缶リサイクルの意義を考えてみる。一つは“100%マテリアルリサイクル”による「省資源」と「廃棄物の減量化」だ。それは、単に最終製品においてだけでなく、製造プロセスでも追求されている。例えば、素材となる缶用材料の製造工程で生まれるスラグ・ダストなどの副産物は、セメント原料などにリサイクルされており、製缶工程では、ラミネート化が進むことで水処理が不要になり、排水やスラッジなどの不要物を出さない。また樹脂メーカーでも、缶の両面にラミネートされるフィルムの屑などを全量リサイクルするなど、スチール缶製造に関わる全ての業界・プロセスでゼロエミッション化が進んでいる。

そしてもう一つの意義は、スチール缶リサイクル率が高ければ、製造エネルギーが低減できるということだ。スチール缶は廃棄処分するよりもリサイクルした方が、製鉄および製缶工程の短縮効果などによって使用エネルギーも少なくなる。当然ながら、「CO2の排出削減」や「省エネルギー」の観点からも重要な取り組みなのだ。鉄鋼業では省エネについて、製造工程の効率化はもちろん、排熱・排ガス・排水を貴重なエネルギー源として活用するほか、製缶工程でも先ほど述べた水処理工程の省略などによって、省エネルギーを極限まで追求している。

一方、スチール缶に限らず“リサイクル”が社会テーマとなる中で、いま鉄鋼業の技術が注目を集めている。コークス炉や高炉、転炉などの製鉄設備は、1,650℃にまで達する高温溶融処理技術でもある。前回まで紹介したように、その操業や設備などの製鉄技術は確実に進歩を遂げている。現在そうした設備技術をベースに、廃プラスチックや廃タイヤなど、他産業で発生する副産物を有効利用している。例えば、廃プラスチックは、コークス炉において高温で熱分解され、生成された炭化水素油は、プラスチック製品の原料として再利用されている(コークス炉化学原料化法)。また廃タイヤでは、13%含まれる鉄(スチールコード)をリサイクルすると同時に、タイヤに多く含まれる炭素を活用し、溶解用微炭粉の代替原料として利用している。ちなみに、先ほどの「冷鉄源溶解法」の熱源としても重要な役割を果たしており、新日鉄広畑製鉄所だけで全国の6%に当たる廃タイヤをリサイクルしている。

さて、スチール缶リサイクルにおける今後の課題は何か?。一つはポイ捨てをなくし分別収集をさらに徹底すること。回収率が高まれば、当然リサイクル率が限りなく100%に近づく。一方、技術的な側面から見た課題は、缶胴用の鋼板と蓋用アルミ板の製造エネルギーのさらなる低減だ。いまスチール缶の蓋部分はアルミでできている。当然ながら、スチールの缶胴とアルミ蓋で製造工程が分かれるが(図1)、全製造工程の効率化による省エネルギーは大きなテーマだ。スチール缶リサイクル協会では今後も、こうした課題解決の一翼を担うとともに、LCAの評価が高いスチール缶の良さを、さらに広くアピールしていく予定だ。