缶の履歴書

飲料缶の世界では新商品が1年後まで生き残る生存率は“1千分の1”と言われるほど厳しく、中身の味・嗜好性はもちろんのこと、デザイン面を含めてより一層の差別化をめざして“商品開発競争”が熾烈さを増している。デザイン面では缶の外面への印刷技術の進化を背景に、差別化の次の手法として「形状」が重要なポイントとなってきている。そこで「デザインへの挑戦」の第2回目では、飲料缶の形状の歩みとして「異形缶」についてご紹介する。

画一的円筒形から多様な異形化に向けて

スチール缶に多様な形状を可能にする要素技術は大きく言って2つある。一つは鋼板製造技術であり、もう一つが成形技術である。前者については特に近年の製鋼工程における精錬技術などの進歩に裏付けられた鋼の清浄化によって、缶材料にとって多様な形状加工を可能にする“深絞り性”が高められてきた。後者については設計・加工・機械等の技術の高度化による成形技術の進歩である。

飲料缶には、ふた・胴・底の3つの部分につなぎ目がある「3ピース缶」と、底と胴につなぎ目がない「2ピース缶」があるが、従来はいずれも、円筒形が一般的な形状であった。それが製品の差別化を求めるニーズの高まりを背景に、デザイン面での重要性が高まるに伴い、さまざまな形状が要請されてきている。そうした背景から開発された異形缶は左下の年表に見られるような経緯をたどってきている。以下に、それらのなかから代表的な3つの異形缶をご紹介しよう。

表1/飲料缶にみるおもな異形缶の開発経緯

市販年次 容量 異形缶の種類 代表商品名
昭和58 250ml 樽型缶 ビール(サッポロ)
昭和58 2L 樽型缶 ビール(サントリー)
昭和60 650ml 樽型缶 ビール(サッポロ)
昭和60 190g 多段ネック型缶 コーヒー(カネボウ)、いも飲料(カゴメ)
昭和62 190g 樽型缶 コーヒー(AGF)
平成 7 190g 樽型缶 コーヒー(ダイドー キリマンジェロ)
平成 8 190g ラミネートタイプ樽型缶 コーヒー(ダイドー プレステージ)
平成11 190g 浮き出し(エンボス)缶 コーヒー(キリン FIRE)
平成12 190g ウエストウェーブ缶 コーヒー(Roots各種)
平成12 280g ウエストウェーブ缶 コーヒー(Roots各種)
平成13 290g カップ形状缶 コーヒー(Roots アールカフェカフェラテ)
平成13 190g コップ形状缶 コーヒー(UCC 炭焼珈琲)
平成14 180g エレガンスカップ缶 コーヒー(コカ・コーラ ジョージアロイヤルブレンド)
平成14 270g TULC湯飲み型缶 緑茶(アサヒ飲料 あがり)
平成14 350g 上下3段ネック缶 りんご紅茶・ココア(ダイドー)
平成16 190g リキャップ缶 コーヒー(サントリー ボスプレッソ)

異形缶のはじまりに位置する「樽型溶接缶」

~形状に加えて、ラミネートフィルムへのグラビア印刷で高まるデザイン性~

大きな流れを振り返ると、わが国における異形缶の歩みは昭和50年代(1975年以降)以降の容器戦争の激化を背景として、メーカーからの要請に対応して開発した「樽型溶接缶」からはじまった。その形状を可能にしたのが缶の胴部分を拡げるための扇状の金型(右図)の開発だ。

この金型を円筒形の缶の中に入れ、樽型に拡げる技術が確立されて新製品が市販されはじめたのは昭和58年(1983年)の3月で当初はビール向けであった。 その後、コーヒー向けの樽缶が開発されるに至り、平成に入って以降も同製品は販売が継続された。さらに大きな転機を迎えたのが平成8年(1996年)に開発された樽缶であった。当時の開発に際して特記されるのは、缶の外面に印刷技術の進化を取り込んでグラビア印刷が可能となったポリエステルフィルムをラミネートする方式が採用されたことである。これによって印刷効果を格段に高め、差別化を図る上で大きな前進を可能にした製品であった。以後、この「ラミネート樽缶」は飲料メーカー各社で幅広く採用されて今日に至っている。

缶胴体の下部分に“くびれ加工”を施した「ウエストウェーブ缶」

~新商品イメージのアピール、コーヒーの新製法に合致した画期的形状~

2000年9月、缶コーヒー市場に画期的な形状の新製品がお目見えした。缶胴体の下部分(ちょうど手で持つ部分)にくびれ加工を施した「ウエストウェーブ缶」だ。飲料缶の形状として画期的な新風を巻き起こしたこの缶は、先行製品が数多くある缶コーヒー市場に新規参入を果たす飲料メーカーが効果的な差別化を意図して採用したものであった。決定までに100を超えるデザイン案が検討され、最終的に選定されたのはコーヒーカップのイメージを表現するとともに、コーヒーの味と香りを保つ新製法の「高温短時間製法」(HTST:High Temperature Short Time)に合致したものだ。実はこのくびれ形状はデザイン性に加えて殺菌効率と缶体強度の向上を可能にするメリットをもたらしている。こうした缶の成形を可能にした技術が「スピンフロー加工」(下図)である。

この加工技術は、たとえてみると、ろくろに乗せた粘土から茶碗や花瓶を手で加工して作り上げる工程によく似ている。つまり、高速で回転させた缶の胴体にロールを押し当てて「くびれ加工」を施すものだ。缶の回転速度とロールの力の加え方とのバランスをいかに取るか、さらに加工方法・加工機械、缶材料の選定など多くの技術的課題がクリアされて技術が確立された。なお、缶体の外径は従来と同一で製缶・充填ラインは改造を伴わず、また自動販売機適性の点でも問題ないものである。この「ウエストウェーブ缶」は開発後も部分的な改善が加えられつつも、同じコンセプトによるシリーズで新しい商品が次々と販売されている。

“開けやすい”“飲みやすい”“香り漂う”「リキャップ缶」

~高温・高圧殺菌、キャップの繰り返し開閉が可能な新製品~

2ピース陰圧缶をさらに進化させた製品として市場に登場したのが、開けやすく、飲みやすく、香りを楽しめながら飲め、さらにキャップの繰り返し開閉が可能な「リキャップ缶」である。飲料缶の蓋は散乱防止のため、口金(タブ)が本体から分離しない「ステイオンタブ(SOT)方式」が主流となっている。しかしこの方式では開けにくく、一度開けると飲み切らざるを得ないという声もあった。そのため求められていたのが、開けやすく、飲みやすく、キャップの繰り返し開閉が可能な缶であった。そのニーズに応えた新製品として2004年2月に市場に登場したのがこの「リキャップ缶」である。

この新製品は高温・高圧殺菌(レトルト殺菌)並びに打検が可能というスチール缶の特長を生かしつつ“リキャップ性”を可能にした点が最大の特長である。缶としては2ピース陰圧缶を進化させたものであり、上部に絞り加工を施して直径を縮めるとともに、蓋の部分にねじ山を形づくり、さらに先端の飲み口部分に曲げ加工が施されている(下図)。

なお、この缶素材には内外面にポリエステルフィルムがラミネートされている。それによって風味の保持性能が優れることに加え、製缶工程で水の使用を伴うことがなく、さらに二酸化炭素や産業廃棄物の発生量も大幅に低減しており、環境保全面でも優れている。この缶には加温販売対応として断熱フィルムをシュリンクしている。このフィルムにはグラビア印刷が可能であるため、デザイン面での優位性が発揮できるのも特色だ。また、当製品は自動販売機への適性はもちろんのこと、加温販売にも対応可能であることから、季節を問わず年間を通して販売展開ができる点が大きな強みとなっている。

今回ご紹介した異形缶は、歩みについても製品事例についても多くの中のごく一部にとどまっているが、これらを通してスチール缶が秘めている形状面、意匠性での可能性の一端を垣間見ることができた。これまでの実績を踏まえて、今後さらに多様な異形缶が開発されていくことが期待されている。