缶の履歴書

缶詰製造の原理が発明されてから、約200年。容器詰め食品の登場とともに必要とされたのは、食品の腐敗を防ぐ「殺菌」技術だ。現在、先人達の知恵と努力によって生み出された殺菌技術をベースにさまざまな殺菌方法が考案され、美味しさと安全性が追求されている。そこで今号では、容器詰め食品の創成期を振り返りながら、「スチール缶は安心缶」の秘密を探るため、スチール缶の中で最も多いコーヒー缶に用いられるレトルト(※) の殺菌技術を代表例としてご紹介する。
※レトルトとは、缶などに密封した飲料または袋詰めなどにした食品を加圧・加熱・殺菌する装置を意味する。

缶詰の登場とともに必要とされた「殺菌技術」

1804年、ナポレオン帝政時代にニコラ・アペールが缶詰製造の原理を発明した。これをイギリスのピーター・デュラントがブリキ缶に応用していわゆる“缶詰”が登場する(写真1)。しかし、当時は殺菌技術が未熟で、腐敗事故などが多発していた。

1861年フランスのルイ・パスツールが発酵や変敗(注1)原因微生物の存在を発見した後、腐敗事故の原因となる耐熱性細菌と変敗の研究などが進んだ。 その後「加熱殺菌理論」が構築され、缶詰の原理発明からおよそ半世紀以上経った1874年、アメリカのA.K.シュライバーが水蒸気利用の“オートクレーブ”を発明し、100℃以上の安定した殺菌が可能になった。現在、殺菌方法の技術的な進展はあるが、殺菌の考え方の基礎は当時と大きく変わっていない。また、1890年には巻締技術の開発で缶詰の安全性が密封面から信頼を得てきた。これにより缶詰法の原理「脱気・密封と殺菌」が確立された。

加熱殺菌を行った食品は常温でも長期保存が可能で、特に缶詰は遮光性、密封性、熱伝達が良く剛性があり、巻締技術により高速生産性も向上し、一般家庭にまで広く普及した。その後日本では、ミルクコーヒーやお茶類を代表とした飲料缶が全盛期を迎え、一般食品の殺菌技術を応用した技術が適用されている。
(注1)微生物により食品が腐敗したり、色や味、香り、形などが変化すること。

なぜ加熱殺菌は必要か

なぜ加熱殺菌が必要なのかー。これは、健康危害を及ぼす病原微生物の生育を防止するためで、特に強力な毒性を持つボツリヌス菌を対象としている。日本の食品衛生法(昭和52年厚生省告示17号)では『pHが4.6を越え、かつ水分活性が0.94を越える容器包装詰加圧加熱殺菌食品にあっては、中心部の温度を120℃4分間加熱する方法、またはこれと同等以上の効力を有する方法で殺菌しなければならない』と定められている。これに対し、pHおよび水分活性が上記数値未満の食品では細菌は増殖しにくく、対象となる微生物はかびや酵母となり100℃以下の低温殺菌がなされる。

しかし最近は飲料の販売流通も変化し、冬場のお茶やコーヒーはホット販売が主流で、その温かい温度を生育環境とする細菌も存在するため、食品衛生法に定められた以上の殺菌を必要とする場合が出てきた。また、加熱工程は、風味などに与える影響も大きく、美味しさと安全性を求めて各メーカーが努力している。

缶詰の登場とともに必要とされた「殺菌技術」

飲料缶のレトルト殺菌方法には、大きく分けて以下の2つがある。

(1)バッチ式全自動レトルト

レトルト殺菌の基本として長い間定着しているのは、「バッチ式蒸気静置レトルト」だ。通常蒸気殺菌では空気混入による加熱不足を防ぐために、レトルト内から空気を追い出し100%蒸気で殺菌することが多く、これを低酸性飲料缶(コーヒーやお茶類)に応用したのが「バッチ式全自動レトルト」(写真2)である。低酸性飲料缶の消費拡大によりレトルトが大型化し、人手を全く介さない全自動タイプが主流となり、レトルト殺菌の中で一番多く使用されている。従来は加熱殺菌後、レトルト釜内を満水にして冷却していたが、最近は、薄板化した缶の変形防止や冷却水の使用量が削減できるシャワー冷却レトルトが登場し、環境への配慮がなされるとともに、シャワー設備によって100℃以下の低温殺菌にも対応できるようになり、多機能型レトルトへと発展している。

(2)連続式レトルト

連続式レトルトは、エンドレスチェーンコンベアに取り付けられたキャリアーポケット内に缶が自動挿入され殺菌処理する装置で同一缶型での大量生産に適している。装置には上の2タイプがある(図1、2)。

安全・安心をお届けするために

変敗しやすい低酸性飲料は、レトルト殺菌後も密封不良や殺菌不足等がないかを確認する方法として「打検」システムが構築されている。通常、缶の中は減圧状態で蓋はやや凹んでいるが、微生物が増殖するとともに発生するガスにより蓋が凸状やフラットになることが多く、叩くと正常なものに比べ異なった音がする。ちょうどギターの弦の張り具合で音が変わるようなものだ。この原理を応用した打検システムは“材料がスチールで容器内が減圧である”条件下で最も精度が良い。スチール缶は、高温殺菌と精度の高い検査のもとに出荷されている。逆にいえば、コーヒーや紅茶、スープ等、ミルクや糖を混ぜた微生物が好む栄養素が多い中身ほどスチール缶が採用され、安全に万全を期しているとも言える。

1996年に承認制度として発足したHACCP(注2)によって、レトルトもライン監視システムが組み込まれ、安全で美味しい内容物を提供するために原料管理や前処理技術、洗浄を含めた製造ラインのトータル微生物管理が不可欠となっている。内容物を高温短時間で殺菌した後、無菌充填(アセプティック充填)を行うものや、加熱に電気エネルギーを利用する方法などが試みられている。食の安全・安心をお届けするための技術向上はもちろん、今後は安全・安心に加え、いかに煎れたてのコーヒーやお茶に近づけるかの努力が微生物制御を含め進められている。(注2)原料から製品に至るまでの一連の工程を管理する衛生管理手法

(注2)原料から製品に至るまでの一連の工程を管理する衛生管理手法