道具は、時代とともにその造り方も変わる。鋏も例外ではない。金型に材料を流し込む量産が主流となっている一方で、日本刀の製法を応用した「総火造り」という伝統技法をいまなお踏襲し、すべてを手造りで仕上げる伝統工芸士がいる。今回は東京で数少ない総火造りの鋏鍛冶・大河原兄弟を紹介する。

東京都葛飾区金町、国道6号線の喧騒からひとつ道を入った所に大河原氏の自宅兼作業場がある。兄弟鍛冶の拠点である。兄・辰雄さん(昭和2年生まれ)と弟・享幸さん(昭和7年生まれ)はコンビを組んで55年を数える。兄が大きな金槌で鉄を打つ「先手」役、弟は右手に小さな金槌を持ちつつ、左手に“ハシ”を持って細工をする「横座」役を果たす。「弟の左手の動き、手さばきが鉄を叩く状態を作ります。この細工こそが総火造りの一番のポイント」と兄は強調する。さらに「鋏づくりは努力より才能の世界。弟は天才肌で初めて鋏を造ったのが14歳の時。いびつな出来でしたが、二丁目はプロ並みの仕上がりでした。その鋏は今でも記念に残してあります」と言う兄の言葉から、弟を立てる心遣いがひしひしと感じられる。

この兄弟鍛冶が手がける鋏はいわゆる洋鋏、裁ち鋏である。最近は洋裁人口が減って需要が少ないが、知る人ぞ知る「菊和弘」(きくかずひろ)の銘が打刻された製品は、プロ職人から指を入れた時の自然な感触、布地を切る時の切れ味など高く評価されて絶対的信頼を集めている。最近は各種包丁も手がけており、料理人からの特注品も多い。また鋏、包丁ともに左利き用も手がけている。

鍛冶場は建屋の入口を入ったすぐ右手に位置している。横座の弟の左手側にコークスが真っ赤に燃えており、鉄を叩く金敷きを中央にして兄弟が向き合う。鋏の素材となるのは板厚5ミリ程度の鉄板で、最近は切る対象物が広がったことや、切れ味の長寿命化のため「安来鋼青紙二号」という銘柄が主に採用されている。

作業は弟が左手に持つハシで鉄板を挟みコークスで加熱するところから始まる。鉄板が赤く染まった頃合いを見て火床から取り出し金敷きに置くやいなや、息の合った金槌さばきが始まる。弟の左手は鉄板を縦にしたり平らに置いたりしつつ、鉄板の温度を色で瞬間的に判断し時折コークスに突っ込む。この繰り返しで進んでいく。指をおさめる曲線部分も巧みに仕上げられ、その一連の動作に「横座の左手の重要さ」が実感された。溶接も接合も一切しない総火造りによる鋏は約40分で完成する。この仕上げの早さは職人の世界でも定評がある。

この総火造りの技術は、兄弟鍛冶の背中を見て育った享幸さんのご子息(31歳)に継承されつつある。「生まれ変わるなら刀鍛冶をやりたい。やはり刀造りは鍛冶職人の夢だからね」と口を揃えるお二人は、どこまでも息ぴったりの兄弟鍛冶である。