缶の履歴書

いつでもどこでもおいしく食べられる“缶入り軽食”

自動販売機で売られているおでんやラーメンなどの“缶入り軽食”が人気を集めている。自動販売機で保温された温かい軽食は、利便性を重視する若者に受けた。また、非常食の硬い乾パンとはまったくイメージが異なる“やわらかいパン”の缶詰も登場している。今回は、小腹がすいたときや非常事態など、さまざまなニーズに合致する缶入り軽食を取り上げ、その開発ストーリーとともに、「強度が高い」「熱に強い」「密封性が高く長期保存が可能」といったスチール缶のメリットを紹介する。

日本の缶詰の幕開け

おでん缶は、インターネットでの情報発信が盛んになった1995年ごろから秋葉原で注目され始め、つくばエクスプレスの開通や大型電器店の開店などで秋葉原が賑わった2005年に、秋葉原名物として大ヒットした。飲食店の少ない秋葉原で、常に自動販売機で保温され、串に刺さった具をすぐに食べることができる手軽さが受けた。

おでん缶の誕生は、20年以上前の1985年まで遡る。名古屋市に本社を置き、缶詰やレトルト食品を手がける天狗缶詰(株)では、冬場の保温用自動販売機に入れる新商品開発の依頼を受け、おでん缶を開発した。同社取締役企画開発部長の伊藤堅一さんは次のように語る。

「従来からの缶詰製造で良質な具材仕入れルートも確立しており、開発当初から味には自信がありました。しかし、20年前は今より小さいサイズで価格が200円。当時の自動販売機商品としては高値でした。そのため1年後には競合他社は撤退してしまいましたが、当社は缶の容量を増やすなど改良を加えながら地道に営業を続け、酒屋さんや自販機メーカーなどで採用されるようになりました」

そして独身寮など若者が集まる場所では季節を問わずよく売れることがわかり、1992年に秋葉原に進出。常温のままで非常食にもなるため、最近は防災グッズのコーナーにも並んでいる。

「おでん缶のヒットの背景にはスチール缶の特性があります。例えば、具に串を刺しても容器の強度が高く突き抜ける心配がありません。また発売当初から、非常に開けやすいイージーオープン缶を採用しましたが、2年ほど前からダブルセーフティエンド(※1)缶を採用し、より一層の安全設計を実現しました。2005年のおでん缶大ブレイク時には、こうした缶の素材特性や構造設計が商品の評判に大きく貢献してくれたと思います」(伊藤さん)。

※1 ダブルセーフティエンド:開口部の安全性を確保したフルオープン蓋

火や水がない場所でも食べられるラーメンを目指して

秋葉原でおでん缶と並んで人気商品となっているのが、2006年に登場したらーめん缶だ。缶の横に折りたたみ式のプラスチックのフォークがついている。開発・プロデュースを手がけたのは、新宿で行列のできる人気ラーメン店「麺屋武蔵」オーナーの山田雄さん。らーめん缶はそもそも非常食を目的に生まれた。

「2004年の新潟県中越地震の時、現地へ炊き出しに行きました。ラーメンを食べた被災者の笑顔を見て、ラーメンは人を幸せにする食べ物だと実感し、火も水もない被災地でもおいしくラーメンを食べられる方法を考えました。カップラーメンはお湯が必要ですが、缶詰ならそのまま食べられ、3年の長期保存が可能です。スチール缶はリサイクルシステムが確立されているエコな素材だと聞き、非常食の容器として意味があると思いました」

また、らーめん缶の味は、非常食ならではのこだわりがあるという。

「被災者の方から何よりも欲しいものは水だと聞き、水分補給にもなる薄味にしました。本来、ラーメンは多少塩気が強い方がおいしいのですが、非常食で喉が渇いては困ります。武蔵の味とは全く違いますが、幅広く受け入れられる味を目指しました。さらに、麺が伸びないよう、こんにゃく麺にし、ラーメンの食感に近づけるよう努力しました。結果的に低カロリーで火を使わず安全なため、お子さんのおやつや夜食にも重宝されるようになりました」(山田さん)。

「2007年の新潟中越沖地震では2,400個のらーめん缶を被災者の元へ届けた。最近は、自動販売機に加えて、高速道路のサービスエリアやスーパーマーケットなどでも扱われている。

「世界中に麺の文化は広がっているので、その土地に合った麺の缶詰を非常食として提供していけたらと考えています。そして食べた人が『よかったな』とほんの少しでも幸せを感じることのできるものを追求していきたいですね」(山田さん)。

 

被災地に、世界の人々に、ふんわり焼きたてのパンを

パンの缶詰の誕生は、1995年の阪神淡路大震災がきっかけだった。栃木県那須塩原市に店舗を構える製パン会社の(株)パン・アキモトは、救援物資として被災者向けにパンを届けたところ、添加物なしのパンは数日で賞味期限が切れてしまい、全員に行きわたることができなかった。開発の苦労を同社社長の秋元義彦さんは次のように語る。

「乾パンのように保存が利くと同時に、やわらかくおいしいパンを作れないかと研究を重ねました。レトルトの真空パックではパンがつぶれてしまうため試行錯誤していたとき、缶詰にヒントを得て焼いたパンをスチール缶に入れてみましたが、殺菌工程を経ると味が落ちてしまう。そこで、パン生地を缶の中で焼くことで殺菌工程と両立させることを思いつき、パンの缶詰が完成しました」

熱に強いスチール缶だからこそ実現できた製パン方法だ。さらに、内側に紙を入れることで、パン生地が缶内部にくっつかず、やわらかくしっとり仕上げることに成功した。最大3年間の長期保存が可能で、1996年の開発以降、自治体や企業、病院の備蓄食料として評価を高め、2007年には同社沖縄工場がフードインスペクターという厳しい基準をクリアして米軍にも採用されている。

さらに、パン・アキモトでは2007年から世界初の「リユースシステム」の仕組みづくりを行った。これは、防災用備蓄食として缶詰を購入した企業から賞味期限が残り1年となった缶詰を下取りし、NGO団体「日本国際飢餓対策機構」を通じて食糧不足が深刻な地域への義援物資として送るシステムだ。同年11月には約4万缶のパンの缶詰をアフリカのジンバブエに送った。

「賞味期限を過ぎて廃棄されてしまうのは、パン職人として悲しいことです。そこでごみ削減と国際支援を両立できる仕組みを考えました。アフリカでは、コップも鉄も貴重品です。蓋も胴もオールスチールのパンの缶詰は、使用後もコップなどとして十分活用してもらった後、溶かしてまた新たな鉄製品に生まれ変わります。スチール缶を使ったパンの缶詰は、素材もシステムも地球環境にやさしい循環型の商品となりました」(秋元さん)。