スチール缶は回収されて「鉄スクラップ」となり、鉄鋼メーカーにおいてリサイクルされ、新たな製品として甦る。何にでも何度でも生まれ変わることが鉄スクラップ最大の特長だ。この鉄スクラップは一般的な工業製品のようにモノとして生産されるのではなく、“発生品”であること、価格が市場の需給動向を敏感に反映する“市況品”であることなどから、価格設定が一般的な鉄鋼製品とは異なっている。
今回は鉄スクラップについて、林誠一氏((株)鉄(スチール)リサイクリング・リサーチ代表取締役)と、小山正氏((株)日刊市况通信社代表取締役社長)のお二人からお話を伺い、鉄スクラップの基礎知識と近年の価格変動推移を紹介するとともに、今後の市場を展望する。

かつてない異常な乱高下を示した07~08年
 ~3局面に分けての分析~

2007年後半~2008年の鉄スクラップの市況価格はかつてないほどの乱高下を示した異常な年となった。

近年の鉄スクラップの市況価格のトレンドを概観すると、バブル経済時の1990年代前半に2万円(t当たり。以下同)前後だった価格が、2001年7月には6,000円近くまで下がり市場最安値を記録して、その後は再び上昇傾向になった(図1)。

 

それが2008年7月に6万7,550円の市場最高値となり、数ヵ月後の11月第3週には1万円にまで下降し、現在は2万円弱で推移している。

林氏は、こうした異常な状況にあった時期を、次のように3局面(A~C)に分けて分析している(図2)。

 

鉄スクラップはグローバルな市況品
 ~その製品特長とは~

2007~2008年にかけての激動は異例ではあるが、鉄スクラップの価格が市場の需給動向を敏感に反映する“市況品”であることは本質的に変わらない。もともと鉄スクラップは“発生品”であるためだ。

鉄スクラップは一般に市中スクラップを指しており、さらに「老廃スクラップ」と「加工スクラップ(工場発生くず)」に大別される。この内7割強は老廃スクラップであり、これは鋼構造物が老朽化して発生するものを指す。発生個所は建物の解体、機械更新、使用済み自動車、さらにあき缶などの容器もこの分類に含まれる。

これらは回収された後、溶解効率を上げるためせん断、破砕、減容などの加工処理が行われ、業界で定められた検収統一規格(図3)に分類されて鉄鋼メーカーに製鋼原料として納入されている。

 

日本で鉄スクラップを近代的な観点から鉄鋼原料として取り扱い始めたのは明治時代であり、約100年の歴史がある。しかし長い間、鉄の蓄積が少なく、日本は鉄スクラップの輸入国であったが、高度成長期に投入されたさまざまな鋼構造物が老朽化の時期を迎え、鉄スクラップの発生量が増加し90年代半ばを境に輸出量が輸入量を上回った。昨今は年間約600万tを輸出している。

世界規模で見ると地域間ギャップがあることも鉄スクラップ市場の特色の一つだ。鉄スクラップを供給できるのは鉄鋼備蓄量が多く余剰であることが前提条件であり、おのずと鉄鋼生産量と需要量が多い日本を含めた鉄鋼先進国に限られてくる。

そして鉄スクラップの輸入を必要とする国々は先進国もあるが、多くが新興国・発展途上国で、“先進国が輸出し新興国・発展途上国が輸入する”という流通パターンが特徴的であるため、鉄スクラップは今やグローバルな商品として位置づけられている。新興国・発展途上国では、鉄スクラップを主原料とする電炉法が投資額や技術面から製鋼法として取り込みやすい点が背景にある。

価格決定のプライスリーダーは鉄スクラップの供給側ではなく、購入側の鉄鋼メーカーであるという特色もある。そのため、国内の鉄鋼需給や国際価格状況を敏感に反映して決定されており、その価格状況を見て海外のユーザーも購入可否の判断を下すことになる。近年は中国、韓国、台湾など東アジア諸国はもとより、東南アジア、ASEAN諸国への輸出も増えている。

昨今は、世界的同時不況のため鉄鋼業は減産体制にあるが、小山氏は「2010~2011年には生産レベルが回復することを含め、BRICsをはじめ新興国の近代化動向も考慮すると、長期的にはトレンドとして鉄鋼・鉄スクラップ需要は高まっていく」と予測している。

循環型社会構築の一翼を担う鉄スクラップ
 ~CO2の削減にも貢献~

鉄スクラップは現代社会の課題である循環型社会構築の一翼を担っていることも大きな特色だ。

環境面への配慮から鉄スクラップの有効利用が促進されており、鉄源補充を目的とした、高炉メーカーによる導入増大傾向も最近の新しいトレンドである(図4)。

 

スクラップをもとに鋼をつくる電炉では、高炉で鉄をつくる場合と比べ、1tあたり1,500~1,600kgのCO2削減効果がある。鉄鉱石から鉄を製造する場合に比べてCO2排出量を約5分の1に減らすことができる。

2007年の日本の粗鋼生産高は約1億2,000万tで、そのうち市中スクラップの利用が25%ほどを占めており、リサイクル面のメリットに加えて、上記のCO2削減という環境対策面での効果も見逃せない。

市況価格高騰がもたらしたスチール缶リサイクルへの影響

スチール缶のリサイクルも一般鉄スクラップの中で行われており、リサイクル率も以上のような背景を受けて変動している。

スチール缶リサイクル率が2006年度の88.1%から2007年度85.1%に変動した要因として、まず一つは破砕処理により付加価値が生まれ、缶スクラップ以外として流通したため、缶スクラップ購入量としてカウントされなかったこと。もう一つは鉄スクラップのさらなる価格高騰を先見した業者による鉄スクラップ在庫が拡大し、リサイクルに回らなかったことが考えられる。

山氏は「実態として鉄スクラップ全体も、スチール缶のリサイクル量も今後減少することはないと見ている。結果的に数字としてリサイクル率が3ポイント下降したが、その理由は、飲料缶、一般缶などを中心とする、破砕処理でC規格として統計上捕捉されるべきものの一部が、別ランクのB規格に組み込まれたことが大きい」と述べている。

最後に、林氏は2009年の鉄スクラップの市況見通しとして「現在は、世界的不況の影響で鉄スクラップ価格も低迷している状況だが、環境問題や新設大手電炉による需要増が期待され、中長期的視野で見れば需給は逼迫していくだろう。当面の価格については2万~2万5,000円の間を行ったり来たりするのではないか。需要回復次第で、年後半には3万円レベルまで上昇する可能性もある」と予測している。

林 誠一 (はやし せいいち)氏

(株)鉄リサイクリング・リサーチ代表取締役

944年生まれ。1966年明治大学政経学部経済学科卒業。1976年~1995年、新日本製鉄(株)総合調査部在職中、鉄スクラップ需給調査を担当。1989年~1995年、(社)日本鉄源協会調査研究委員会委員長。1995年~2006年、(株)日鉄技術情報センター・市場調査部に在職。退職後2006年(株)鉄リサイクリング・リサーチを設立し代表取締役、現在に至る。

小山 正 (こやま まさし)氏

(株)日刊市况通信社代表取締役社長

1940年生まれ。1972年鉄・非鉄スクラップの専門情報紙である日刊市况通信社に記者として入社、以来38年在籍。1991年東京編集長、1994年取締役東京支社長、1998年代表取締役に就任、現在に至る。