多くの島々が織りなす美しい景観と豊かな自然に恵まれた瀬戸内海。しかし、その海底には1万tを超える大量のごみが堆積していると言われ、海洋環境に悪影響を及ぼしている。美しい瀬戸内海を取り戻したい。そんな願いを胸に、山陽女子中学校・高等学校(岡山県岡山市)の地歴部員が、海底ごみの回収・啓発活動に取り組んでいる。

新しい食の循環システムを構築

海ごみには漂流ごみ、漂着ごみ、そして海底ごみがある。海上を漂っている漂流ごみは国土交通省などの国の機関が、波打ち際に流れついた漂着ごみは海岸を所有する地方自治体が回収を行っている。これに対して、海に沈んだ海底ごみは回収者と責任の所在が明確化されておらず、地域の漁師らが漁獲海域を守るため、網にかかったごみを持ち帰る程度の回収しか行われていない。

山陽女子中学校・高等学校地歴部の調べによれば、瀬戸内海の海底ごみの堆積量は1万3,000tに達し、そのうち陸域からの流入ごみが全体の約7割を占めている。瀬戸内海は周囲を陸地に囲まれた閉鎖性海域であるため、外海からのごみの流入が少ない一方、陸域から河川などを通して流入したごみが堆積しやすいという特徴を持っている。現在も年間700tのごみが新たに海底に沈んでおり、その大半は定期的に回収されることがない。海底ごみは増加の一途をたどっている。

「海底ごみの存在を私も最近、学生時代の友人から教えられ、勉強させられました。ごみ一つ浮いていないきれいな海であっても、網にたくさんのごみがかかります。これは体験しないとわからないことです。環境問題を実際に見て、感じ、学ぶのに良いテーマだと思いました。 活動を始めると生徒たちの意識が大きく変わっていきました」(同校地歴部顧問・井上貴司教諭)。

回収物の大半は生活ごみ

同校地歴部による海底ごみの回収活動は、2008年から年3回以上、寄島町漁協(岡山県浅口市)の協力のもと、三郎島沖の海域で行われている。この海域には水島コンビナートを流れる高梁川を通して流入したごみが大量に堆積している。ごみ回収には小型底引き網を使い、約30分海底に降ろしたのち網上げを行う。網を引き揚げると、生徒たちが船上で回収物を魚介類と可燃ごみ、不燃ごみに分別する。回収物の大半はビニールやプラスチックなどの生活ごみだ。夏は灼熱の太陽のもと、冬は寒風が吹きつける中、船酔いとも戦いながら、この作業を3時間にわたり5回繰り返す。

「私たちの生活に関係が深いお弁当容器、ペットボトル、お菓子の袋も含まれています。海底で人が生活しているかのような錯覚を覚えました。責任の重さを痛感しました」(高校2年・築地志歩さん)。

回収したごみは漁港へ持ち帰り、細かい分別と計量を行っている。回収されたごみの中には、賞味期限が1992年4月と明記されたあき缶が見つかっており、海底ごみは数十年以上という長期間堆積している可能性が高いことが明らかになった。ごみ回収の定点調査結果を見ると、活動開始当初の2008年11月は30㎏にのぼったが、2012年11月には12㎏まで減っている。

国内外で啓発活動を展開

海底ごみが日常生活に起因していることに気づかず、ポイ捨てや不法投棄が繰り返されることで、海底ごみが生み出されている。こうした状況を広く理解してもらうため、同部では啓発活動も展開している。その活動は商店街での呼びかけ、学会での研究発表、啓発教材の制作、出前授業、親子体験学習の実施など多岐にわたる。特にオリジナルの「海ごみかるた」は小学校で環境学習、老人ホームではリハビリの一環として活用されており好評だ。

「海底ごみの回収は、みんなが気軽に参加できるわけではありませんが、一人ひとりが意識を変えることはできます。海底がごみ箱にならないよう呼びかけていきます」(高校2年・山口結愛さん)。

活動の場はさらに海外に広がっている。2011年8月アメリカ・ボルチモアで開催された第9回世界閉鎖性海域環境保全会議(世界25ヵ国約300人が参加)のポスターセッションで、同部の活動が高く評価され最優秀賞に輝いた。また2013年7月に日本ストックホルム青少年水大賞でグランプリを受賞し、9月にはスウェーデンで開催される国際コンテストに日本代表として派遣。10月トルコでの第10回世界閉鎖性海域環境保全会議にも日本代表として発表を行う。

「同じ問題を抱えている地域がお互い連携し、ネットワークをつくることの大切さも学びました。日本国内だけでなく世界にも海底ごみ問題の情報を発信していきます」(高校2年・井上歩美さん)。