世界へ広がる日本のごみ減量・3Rの取り組み

アジアをはじめとする新興国の都市では、急速な経済成長に伴い、ごみの排出量が増え続け、ごみの減量化が緊急の課題となっている。こうしたなか、なぜ日本の首都・東京が経済発展を持続しながら、ごみの減量化に成功したのか。住民の分別排出から始まる東京のごみ処理システムのノウハウや技術に、海外の諸都市から大きな関心が寄せられている。

東京モデル
住民と行政と事業者が一体となった循環型ごみ処理システム

世界のごみ発生量は今後増加していくことが予測されている。では、ごみが増えるとなぜ困るのか。ごみが街角にあふれ不法投棄が増えると、温暖な気候の地域では、そのごみから害虫やばい菌が発生して、チフスやコレラなど伝染病の原因となり、地域住民の生活を大きく脅かすことになる。また資源物をリサイクルしなかったり、ごみを焼却せずにそのまま埋め立てていると、処分場が早期に不足するだけにとどまらない。生ごみなどが発酵分解されてできたガスが自然発火して、火災が発生し大気を汚染したり、ごみから染みだした汚水により水質が悪化し、自然環境への負荷が大きくなる。すでに新興国の都市部やその近郊では、こうした問題が顕在化している。

かつて東京も同じ悩みを抱えていた。特に戦後の高度経済成長期以降は大量生産・大量消費による深刻なごみ・環境問題が発生したが、ごみの収集・処分の責務をかつて負っていた東京都や、現在負っている23の特別区は、国や住民、事業者などとの連携協力によりさまざまな困難を克服してきた。例えばライフスタイルの変化とともに紙類・プラスチック類・金属など、ごみの性状や発生量が変化するなかで、分別や収集・運搬の方式も時代に合わせ改善されてきた。その結果、東京23区の2013(平成25)年度のごみ排出量は、1989(平成元)年度のピーク時比43%減の282万トンまで低減している。

東京の強みは東京モデルと呼ばれる循環型ごみ処理システムを構築している点にある。住民はごみ(可燃ごみ・不燃ごみ・粗大ごみ)と資源を分別して排出し、各区が分別収集・運搬を行い、スチール缶などの資源は事業者によってリサイクルされ、可燃ごみは東京二十三区清掃一部事務組合(清掃一組)が運営する清掃工場で安全に焼却処理し、その焼却灰を東京都が設置・管理する最終処分場に埋め立てるという役割分担がしっかりと確立されている。だから決められたとおりに分別排出すれば、埋め立てるごみの量を減らすことができるのだ。

「1世紀余りに及ぶ長い歴史と経験の積み重ねによって、東京23区の清掃事業は、世界に誇るさまざまな技術・ノウハウを保有・蓄積してきました。現在ごみ問題に直面している海外の諸都市に、東京の経験や技術を伝えることで、海外諸都市の課題解決と地球環境の保全に貢献していきたいと考え、清掃一組は特別区と協力して、人材交流などの国際協力事業を展開しています」(東京二十三区清掃一部事務組合・神野美和課長)

「未曾有の被害を受け、市民の皆さんは不安定な生活環境を強いられ、生活の再建に追われました。したがって震災直後の家庭ごみ総量と資源物混入率の増加は、やむを得ない現象ではありました。しかし、いまだ震災前の水準に戻っていないのは、分別意識が希薄化してしまったことや、ごみ排出ルールの異なる他地域からの転入者の増加が原因の一つになっているのではと考えられます」

こうしたなか、市環境局ではきめ細かい広報・啓発によって、改めてごみ減量・資源化の取り組みを進めている。2014年5月30日から2015年3月31日の間には「緊急分別宣言!!みなさん、きちんとワケてますか?」キャンペーンを展開し、市民に分別の大切さを呼びかけている。

クアラルンプール市民との交流住民の協力体制の大切さを伝える

情報の共有化

マレーシアの都市ごみは現在、埋め立て処分されている。そのため処分場では、温暖化ガスの発生や浸出水による地下水汚染などの深刻な環境問題が発生している。対策として、ごみの大幅な減量化を図るため、清掃工場の建設について国際入札を行う計画がある。しかし清掃工場を建設しても、ごみの分別など、住民の協力なくしては安定的な稼働は見込めない。ごみの排出源での取り組みが重要になるが、マレーシアでは日本に比べて分別や3R(リデュース・リユース・リサイクル)といった基本的な考え方が定着していない。また清掃工場建設の際にも、住民の協力をいかに引き出すかが課題となっている。

こうしたマレーシアの都市ごみの現状を受けたJICA(独立行政法人国際協力機構)草の根技術協力事業「マレーシアの廃棄物管理における住民の協力体制の構築支援」の一環として、清掃一組と特別区は、クアラルンプール市民の東京受入と区民のクアラルンプール市派遣を実施した。交流事業は、まずクアラルンプール市民の東京受入が2014(平成26)年11月16~22日の7日間行われた。来日した4自治会10人のクアラルンプール市民は、荒川区・江東区・墨田区・世田谷区でごみの収集・運搬や集団回収などの活動にかかわる区民との連携・協力の状況を視察した。交流事業に参加した世田谷区東玉川町会の清水勝代さんは次のように振り返る。

「集団回収では資源の回収量に応じて報奨金が得られ、地域活動に活用していることをご説明したとき、クアラルンプールの皆さんは分別意識の高揚と地域交流の深化が両立していることに驚かれていました。これまで当たり前のように活動してきましたが、回収状況や支給された報奨金の金額などを知らせて情報を共有化すること、活動によって得られた利益を還元すること、次代を担う人材の育成が大事だということを再認識しました」

継続は力なり

世田谷区の南東端に位置する東玉川町会は、世田谷の奥座敷と呼ばれる閑静な住宅街に約8,000人が暮らし、3,876世帯中2,200世帯が町会に加入している。集団回収は1981(昭和56)年、町会の婦人会が中心となり古紙、ダンボール、古布、缶、びん類などの回収を始めたことにさかのぼる。婦人会は赤ちゃんの子育て支援を目的に、1951(昭和26)年に発足し、60年以上の活動実績を誇っている。

「当時リサイクルという概念は、まだ世の中に浸透していませんでした。初めは集積所に捨てられたごみの中から資源を分別していたので、『どうしてお母さんたちはごみをあさっているの?』と子どもたちに言われたものです」(東玉川町会・清水さん)

2000(平成12)年に世田谷区で資源収集が始まると、婦人会の集団回収は縮小した。しかし区の資源収集が1㎏当たり約40円の処理費用がかかるのに対して、住民による集団回収では約8円と安い経費で資源を回収することができる。収集にかかるコスト削減は税金の節約につながる。そこで2009(平成21)年からは、東玉川町会として毎週火曜日に町内143カ所で古紙の集団回収を実施している。各エリアに担当者を配置し、集積所までの持ち運びが困難な高齢者世帯を戸別訪問して回収するとともに、古紙の持ち去りを防ぐため巡回パトロールを行っている。こうしたきめ細かな工夫によって、2013(平成25)年度には約320tの古紙を回収した。

さらに隣接する町会と共に、中古衣料回収を年2回(7・12月)実施している。今年7月5日には使わなくなった家庭内の衣料や古布を約16.91t回収した。これら中古衣料は海外に運ばれ再利用されたり、ウエス(工業用雑巾)などに加工されリサイクルされている。 

こうした東玉川町会の活動をクアラルンプール市民に紹介した石田篤子さんは、当日の様子を次のように語る。

「クアラルンプールの皆さんを歓迎して、オカリナでマレーシア民謡を演奏したら、演奏に合わせて歌い踊ってくださり感激しました。体験実習では廃食用油から石けんやロウソクをつくれることに、とても興味を持たれていました。ご説明した町内会の活動は、私たちの親の代から長い歳月をかけて今日に至っています。まさに“継続は力なり”です。小学校で開催される夏の盆踊り大会にごみステーションを設置して分別教育を行うなど、子どもたちに私たちの経験を教え伝えることの大切さを学びました」

さらなる減量化を目指す

クアラルンプール市民の受入を行った荒川区・江東区・墨田区・世田谷区の区民は、今年1月25~31日の7日間、今度はマレーシアを訪問し、クアラルンプール市民の帰国後の取り組みを視察して意見交換を行った。クアラルンプールを訪れた東玉川町会の藤原誠さんは次のように感想を話す。

「生ごみ回収とコンポストを利用したハーブ園の取り組みに感化されました。東京でも生ごみの削減は大きなテーマです。生ごみを出さないような買い物の仕方や、食材を無駄にしない調理法の研究など、まず食品ロスを減らすことが大事です。その上でどうしても捨てるときには堆肥化することになります。しかし住宅街では堆肥の使い道がありません。活用法も考えておかなければならないと思いました」

日本では年間約1,700万tの食品廃棄物が排出され、このうち本来食べられるのに捨てられている食品や食材(食品ロス)は年間約500~800万t含まれると推計されている。これは日本の米生産量に匹敵する量だ。世田谷区でも家庭ごみに含まれる未使用・未開封の食品が目立つようになり、直近の調査では可燃ごみの3~4%、年間約6,200t(清掃車約4,100台分)が廃棄されていると見られる。食品ロスを減らす試みとして、区ではフードドライブを実施している。フードドライブとは、家庭で余っている缶詰やインスタント・レトルト食品、調味料などの食品を持ち寄り、広く地域の福祉団体などに寄付するボランティア活動で、2014(平成26)年度には1,475 点386 kgの食品が都内のフードバンク団体に寄贈された。

クアラルンプール市民との交流を終えて、世田谷区の前田佳治主事は次のように展望を語った。

「区民の皆さんとの連携で、分別の徹底とリサイクルの推進が実践されてきました。区の一般廃棄物処理基本計画では、さらに区民1人1日当たりのごみ排出量を2013(平成25)年度の579gから2024(平成36)年度には492gまで減らす目標を掲げています。今後は発生抑制(リデュース)と再使用(リユース)の2Rに重点を置いた区民の皆さんの主体的な取り組みも支援して、ごみ減量・3R推進の底上げを図りたいと考えています」

住民との合意形成

マレーシアではクアラルンプール市などで今秋から家庭ごみの分別収集が導入される。こうした草の根の住民交流が礎となって、クアラルンプール市のごみ問題解決につながることが期待される。

ごみ問題の解決には分別排出から収集・運搬だけでなく、中間処理まで一体となったシステムの構築が必要だ。中間処理施設のない海外の諸都市では、施設に関する計画から建設、運営などに至る経験やノウハウを持っていない。そこで清掃一組では、清掃工場などへの海外からの視察者を受け入れている。視察人数はこの10 年間で倍増し、年間5,000人を超えている。中国、タイ、マレーシアなどのアジア圏だけでなく、中東や南米からも視察に訪れている。

「清掃工場の建設やその後の運営にあたっても、住民との合意を形成することが重要です。東京の清掃工場は安全かつ安定的な運転で、焼却処理によりごみの容量を95%削減し、最終処分場の延命に寄与しています。また焼却で発生する熱エネルギーを発電や熱供給にも有効利用しています。海外の諸都市にとって電力供給はインフラ整備に欠かせません。東京が持つごみ処理システムの強みをベースに、これからも海外の関係者に問題解決に向けたさまざまな助言をしていきたいと考えています」(清掃一組・神野美和課長)

ごみ・環境問題に直面している海外の諸都市で、日本のごみ減量・3Rの取り組みが評価され、問題解決に向けさまざまな形で採り入れられている。