鉄と磁石を科学するスチール缶は鉄でできている!

スチール(steel)は英語で「鉄」を意味します。ですからスチール缶(steel can)とは「鉄でできた缶」のことを指します。しかしスチール缶リサイクル協会の意識調査で、スチール缶の素材についてたずねたところ、「鉄」と答えた人は67%にとどまり、3人に1人はスチール缶が鉄でできていることを知らないことが明らかになりました。 スチール缶が鉄でできていることを知ってほしい!  今回のメインレポートはそんな思いを込めて、「鉄はなぜ磁石に付くのか?」「磁石の働きとは一体どのようなものなのか?」 知っているようで知らない磁石に付く鉄の性質と磁石の世界を科学します。

磁石に付く鉄の性質を利用する

スチール缶は鉄でできているからこそ、分別収集された缶の中から自治体の資源化施設などで手選別することなく、磁選機で自動的に大量に分別処理できます。選別されたスチール缶はそのままプレスするだけで、品質の高いリサイクルの原料になるため、リサイクルしやすい容器と評価されています。

磁選機は鉄が磁石に近づくと引き寄せられる性質を利用しています。多くの自治体であき缶はスチール缶とアルミ缶に分別排出することなく収集されています。収集されたあき缶は資源化施設で、選別ラインのベルトコンベアに移されます。ベルトコンベアで運ばれたあき缶のうち、磁選機のところで鉄でできたスチール缶は磁石に引き寄せられ、磁石の力が弱まったところで落下します。こうして落ちた場所の違いでスチール缶とアルミ缶が選別されています(写真1)。

1901(明治34)年、官営八幡製鉄所が操業を開始すると、鉄鉱石から鉄分を取り出し鉄鋼製品までを製造する一貫鉄鋼生産体制が整い、鉄道用レールや船など構造物に使われる厚い鋼板(厚板)が生産されました。しかし1910年代(明治末期~大正期)に入っても、缶の素材となるブリキは100%輸入に頼っていました。その最大の理由は薄板をつくる技術の壁があまりにも高かったからです。

鉄が磁石に付く性質とスチール缶が鉄でできていることを知ってもらうため、スチール缶リサイクル協会では、環境展のイベントなどで子どもたちにあき缶釣りを体験してもらっています(写真2)。磁石があれば家庭でも何が鉄でできているのかを調べることができます(写真3)。例えばキッチンの冷蔵庫の扉に「おやつのクッキー、手を洗ってから食べてね」とマグネットシートが貼られていませんか。それは冷蔵庫が鉄でできているから、磁石の力でシートが糊付けなしでピタッと貼り付き、確実に伝言してくれるのです。

磁石の正体を探る

それではスチール缶など鉄でできたものを引き寄せる磁石の力とは、一体何者なのでしょうか。磁石がスチール缶を引き寄せる性質を磁性、この磁性が届く範囲を磁場といいます。スチール缶が磁石に引き寄せられるのは、磁石がつくる磁場の中にスチール缶が入ったからです。この現象は磁化と呼ばれ、磁石に強く引き寄せられるものを強磁性体といいます。強磁性体は鉄、ニッケル、コバルトの3種類の金属に限られ、磁石の主な材料にもなっています。

続いてスチール缶が磁場の中に入ると、なぜ磁石に引き寄せられるのかを考えてみましょう。それはスチール缶自身も磁石になっているからです。鉄などの強磁性体は、一つ一つが小さな磁石(原子磁石)の集まりであるといえます。ふだん原子磁石は、ばらばらの方向を向いているため、磁石の性質を持ちません(図1)。しかし外から強い磁石の力を受けると、原子磁石が同じ方向にそろうため、スチール缶は磁石の性質を持つようになり、引き寄せられます

では鉄はなぜ原子磁石を持っているのでしょうか。すべての物質は原子でできていて、原子核とその周りを飛ぶ電子で構成されています(図2)。この原子構造を太陽系に例えると、原子核が太陽、電子が地球にあたり、太陽の自転、地球の公転と自転から生じる3つの磁力の合計が原子の磁力となります。実はすべての物質に原子磁石はあるのですが、特に鉄などの強磁性体は、地球の自転に相当する電子のスピンからの磁力の割合が大きいという特徴を持っています。だから鉄の原子磁石が同じ方向にそろうと、大きな磁力が働き、磁石の性質を持つのです。

磁石開発に携わった日本人科学者

磁石の歴史は物理学の発展の歴史といわれています。実は磁石開発の歴史には、多くの日本人科学者が携わってきました。本多光太郎博士は1917(大正6)年にKS鋼、1934(昭和9)年に新KS鋼を発明しました。これらは当時、世界最強の永久磁石でした。日本物理学の父と呼ばれた長岡半太郎博士のもと、磁気ひずみの研究を行うことで、大きな成果をあげました。

1931(昭和6)年には、本多博士と研究を競い合っていた三島徳七博士が、KS鋼より強い磁力を持つMK鋼を発明しました。この功績を称えられ、1985(昭和60)年に特許庁から本多博士と共に日本の十大発明家に選定されました。MK系磁石は現在も世界で使用されている永久磁石の70%以上を占めています。

また同じ1931(昭和6)年、加藤与五郎博士がOP磁石を発明しました。のちに改良が加えられてできたフェライト磁石は、現在も世界中で使われています。カセットテープなどの磁性記録の基礎となりました。

こうして日本の物理学が発展する中、1949(昭和24)年に湯川秀樹博士、1965(昭和40)年に朝永振一郎博士がノーベル物理学賞を受賞しました。さらに1982(昭和57)年には、佐川眞人博士がネオジム磁石を発明しました。鉄と鉄の原子間にホウ素を入れることで、本多博士が発明したKS鋼の約60倍の性能を発揮し、今も性能は向上し続けています。

社会の発展や地球環境の保全に貢献

現時点で世界最強の永久磁石の性能を誇るネオジム磁石は、エアコンや冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エレベーター、工作機械、建設用重機などのモーターに広く用いられています。従来のモーターに比べて小型・軽量化が可能で効率が良いことから、省エネルギーに大きく貢献しています。世界の電力需要の中でモーターの占める割合は高く、従来型モーターから高効率モーターへの置き換えは、電力の節約につながります。さらに風力発電の高効率発電機、ハイブリッド自動車や電気自動車のモーターのすべてに使用されるほか、小型・高機能化が求められるコンピュータ用ハードディスクのボイスコイルモーター、携帯電話のスピーカー、医療用MRIなどにも広く利用されています。

今回のメインレポートを監修していただいた愛媛県総合科学博物館の篠原功治さんは、磁石に関するサイエンスショーや展示を企画してきました。その想いを次のように話しています。

「科学者たちがどのような想いを持って磁石開発に携わってきたのか、その何かを感じ取ることで日本を変えていきたいという感想が来場者から寄せられました。大変うれしいことです。磁石が付くのか、付かないのかというシンプルな実験は、多くの来場者にとって磁石の力を体感でき、印象に残ったようです。鉄はなぜ磁石に付くのか、磁石の働きとは一体どのようなものなのかといった“科学する心”を伸ばす活動を続けていきたいと思います」

スチール缶は磁石に付く性質を利用して、資源化施設で自動的に大量に分別処理され、製鉄所でリサイクルされています。スチール缶の分別収集は全国99.0%の自治体で実施され、2014年度のスチール缶リサイクル率は92.0%を誇っています。さらにスチール缶はスチール缶だけでなく、自動車やビル、船、鉄道、橋など鉄でできているものに、「何にでも何度でも」生まれ変わっています。鉄でできているスチール缶は、これからも社会の発展や地球環境の保全に貢献していきます。