川崎市が「ごみ分別アプリ」を開発

神奈川県川崎市はスマートフォンなどのモバイル端末向けに「ごみ分別アプリ」を開発し、今年4月から無料配信している。キーワードを入れるだけで簡単にごみの分別や出し方がわかり、品目ごとの収集日なども教えてくれる。川崎市のアプリを活用したごみ適正排出への試みについてレポートする。

転機は1990年の「ごみ非常事態宣言」

東京と横浜の中間に位置し、近年はターミナル駅周辺の再開発で目覚ましい発展を遂げる神奈川県川崎市。政令指定都市として、その人口は148万人、世帯数は70万世帯を超え(2016年7月1日現在)、若年層や子育て世代などの転入者も増加している。

今年4月に川崎市が配信した「ごみ分別アプリ」は、そうした若年層をはじめとする幅広い世代に対し、ごみ分別のサポートを目的として開発された。配信から3ヵ月でダウンロード数が1万を超えるなど、市民からの評判も上々だ。まずはその特徴・機能について紹介する前に、アプリの開発背景として、川崎市におけるごみ処理の歴史と現状について見てみよう。

1901(明治34)年、官営八幡製鉄所が操業を開始すると、鉄鉱石から鉄分を取り出し鉄鋼製品までを製造する一貫鉄鋼生産体制が整い、鉄道用レールや船など構造物に使われる厚い鋼板(厚板)が生産されました。しかし1910年代(明治末期~大正期)に入っても、缶の素材となるブリキは100%輸入に頼っていました。その最大の理由は薄板をつくる技術の壁があまりにも高かったからです。

川崎市では1924(大正13)年に清掃監視業務を開始し、1938(昭和13)年には早くも市としてのごみ収集事業を行っている。その後、京浜工業地帯の中核都市として急成長を遂げ、産業集積や人口の増加が著しい高度成長期の1969(昭和44)年には毎日収集(週6日)を実施。1977(昭和52)年には空き缶分別収集も開始している。

ごみ処理に対して積極的に取り組んできたといえる川崎市だが、80年代後半に入ると好景気もあり、右肩上がりで増加し続けるごみ排出量に処理が追いつかなくなった。そして1990(平成2)年には「ごみ非常事態宣言」を出す。現状のままではあと数年で焼却場の処理能力を超え、埋め立て場もいっぱいになってしまう。そこで市民にごみの減量とリサイクルを呼びかけた。これを転機に、川崎市では普通ごみの収集回数の変更、ごみの適正排出・分別意識の啓発など、さまざまな施策を打ち出した。その効果もあってごみ排出量は徐々に減り始め、資源化率も上昇していくこととなった。

川崎市では現在も人口増加が続くなか、焼却ごみの量は1990年のごみ非常事態宣言をした当時と比較すると約3割減少した。近年の推移を見ても、2006(平成18)年度には約60万トンであった総排出量は、2014(平成26)年度には約53万トンにまで減少している。市のごみ減量への継続的な取り組みと、市民の意識の高まりがその背景にあることは間違いない。しかし近年は減少傾向がやや鈍化して横ばい状態となっており、さらなる減量の推進が課題となっている。

若者の感性と視点でアプリ制作

川崎市の現在の資源物・ごみ分別は8分別9品目。空き缶・ペットボトル、使用済み乾電池、空きびん、プラスチック製容器包装、ミックスペーパーの5つの資源物と、普通ごみ、小物金属、粗大ごみ(有料)に分けられる。資源化率を高めるため、分別は以前に比べて複雑になっている。資源物・ごみを前に市民が「何に分別したらいいのかわからない」と戸惑うケースも出てきた。また分別の多様化に加え、大都市特有の現象として、若年層や市外からの転入者が多く、分別ルールの周知徹底が難しい。

「これまではパンフレットやチラシなどの紙媒体を使い、市の施設での配布や回覧板などで情報提供を行ってきましたが、それだけでは情報が伝わりにくい面もありました。そこで近年、普及が著しいスマートフォンをはじめとするモバイル端末を活用し、アプリで情報を発信していくことを決めました」

環境局減量推進課の担当者は、特に分別ルールがなかなか伝わりにくい若年層をメインターゲットにしたと語る。

いまや日常生活にとってスマートフォンなどのモバイル端末は欠かせないツールであり、特に若者との親和性が高い。それらを使ってごみ分別情報を発信するのは優れたアイデアといえる。しかし問題はどのようなアプリにするかである。当然ながら若者が使ってみたいと思えるアプリでなければならない。そこで川崎市では、市内多摩区に学校があり、市と基本協定を結んでいる専修大学に呼びかけ、学生たちと一緒にアプリの共同開発を行うことにした

共同開発のパートナーとなったのは、専修大学ネットワーク情報学部の飯田周作教授のゼミ生たち。当時の3年生を中心に、川崎市側と協議を重ね、およそ1年をかけてごみ分別が簡単にわかるスマートフォン用アプリを完成させた。

では、実際のアプリを見てみよう。トップ画面はとてもシンプルで、スタイリッシュなデザイン。これだけでも若者の視点で制作されたことがわかる。自分の住んでいる地区をあらかじめ設定すると、アプリを立ち上げたとき、当日のごみ収集品目をアイコンで知らせてくれるほか、「通常どおりの収集を行っています」といったお知らせ情報も表示。「今日は何の収集だっけ?」と貼り紙を確認したり、パンフレットをめくる面倒もなく、非常に便利だ。収集日を間違えないようにアラームを鳴らすこともできる。

このほか、ごみを出すときの注意点や生ごみの水きり方法など、ごみのルールとテクニックがわかる「豆知識」、リデュース・リユース・リサイクルについて楽しみながら学べる「3Rクイズ」、ストーリー仕立てでリサイクルやごみの減量について知ることができる「紙芝居」など、各種コンテンツも充実し、飽きさせない。

環境局減量推進課の担当係長は、「今回のアプリは実際の利用者に近い大学生の皆さんが、自分たちの目線で使いやすいと感じるものをつくってもらいました。ごみの豆知識や3Rクイズにも学生の皆さんの意見を取り入れ、面白くてためになる内容となっています。若い皆さんに積極的にかかわっていただいたおかげで、非常に充実したアプリとなりました」と手応えを語る。

さらなるごみの減量とリサイクルの推進を目指して

川崎市のごみ分別アプリで中心となるコンテンツが、ごみ分別の検索機能だ。1万品目以上のデータベースが登録されており、その種類の多さに驚かされる。あ行のアイスクリームだけを見ても、アイスクリームのふた(プラスチック製)、アイスクリームのふた(紙製)、アイスクリームの包装・容器(プラスチック製)、アイスクリームの包装・容器(紙製)と4つに分かれる。さらには、アイスホッケー防具、アコーディオンカーテン、あぶら取り紙、握力計、圧縮袋など、品目が非常に細かく具体的で、分別時に迷いそうなものがずらりと並んでいる。

これらは、近隣自治体で先行して運用されていたアプリのデータベースを参考に、市で従来から持っているデータに加えて、収集を担当する事業所に寄せられる問い合わせの多い品目などを集約・整理して作成したという。例えば2013(平成25)年から全市でプラスチック製容器包装の分別回収を実施している。これは弁当容器などプラマークの付いたものが対象で、歯ブラシやポリバケツといった製品プラスチックは普通ごみになる。この違いがわかりにくいという問い合わせも多いが、アプリを使えば製品別の分別がすぐに判断でき、利便性は格段に高まった。実際に市民からも「パンフレットなどの紙の情報より詳しいので助かる」といった声が届いている。

川崎市では廃棄物減量指導員制度を設け、ごみの減量やリサイクル推進の旗振り役となるボランティアリーダーが市全体で約2,000人いる。アプリの配信にあたっては、そうした人たちにチラシを配布し、地域でアプリを活用してもらえるよう協力を依頼した。「紙の限界を補う目的でアプリをつくったが、そのための広報が紙となっているのはジレンマ」(環境局減量推進課の担当者)ではあるものの、今後も市民祭りなどさまざまな場を活用してアプリ活用の呼びかけに力を入れていく方針だ。

川崎市の第1期行動計画では、2017(平成29)年度までに、2014年度基準で①1人1日当たりの普通ごみ排出量15グラム削減(2014年度453グラム)、②家庭系の資源化率30%(2014年度29%)、③ごみ焼却量1万トン削減(2014年度37万トン)という目標を掲げている。その目標達成に向け、ごみ分別アプリは大きな追い風となるに違いない。