株式会社ナカムラ 代表取締役社長 中村 和弘氏

台風や大雨、地震、津波、火山噴火、大雪など、日本は自然災害が多い。電気・ガス・水道などのライフラインが復旧するまで、備えておきたい防災用品の1つにマッチがある。1910(明治43)年創業のマッチ製造販売会社5代目で、防災用スチール缶マッチを開発した中村和弘さんにお話を伺った。

災害時の不安な暗闇のなか、灯りをともすと心がホッとするものです。特にマッチの火は柔らかな炎が立ち上がるため、人に温もりや安らぎを与えてくれます。

マッチは近年、ライターやコンロの自動点火装置、電化製品の普及に伴い、生産量が減少しています。しかし明治・大正時代には、銅や綿織糸と並んでマッチは日本の主要輸出品でした。輸出先は中国やインドなどアジアをはじめ、欧州にまで及びました。最盛期の20世紀初め、スウェーデンや米国と並び日本は世界三大生産国でした。なかでも兵庫県は輸出拠点の神戸港を擁し、マッチ産業が盛んでした。現在でも国内生産量の9割を占めていますが、製造を続けているメーカーは10社程度となっています。

暮らしに欠かせない火は国内でまかなえるようにしたい。そんな想いを胸に、私は「タダで配られる広告マッチ」から「付加価値を買っていただけるマッチ」への転換を図る商品開発に取り組んでいます。防災用スチール缶マッチは、その一環として開発しました。東日本大震災直後、神戸市東京事務所に貸出していた100個の防災用スチール缶マッチは、被災地に寄付され、重宝されたと伺いました。大変うれしかったですね。

包装にスチール缶を選んだ理由は、湿気らず長期保管が可能な密封性、つぶれない強度、そして優れたリサイクル性にあります。マッチの軸木には間伐材が使われています。間伐材とは、木の間引きによって生まれる木材です。森の木の本数を調整することにより、残された木に十分な栄養や水分、太陽光線、風を供給し、成長を促す大切な森林育成作業です。用途の少ない間伐材をマッチの軸木に使うことで、マッチ産業は森を守るお手伝いをしてきました。さらにマッチの軸は、燃やされても有害ガスを発生することなく、残っても自然分解されリサイクルされます。つまりマッチはエコ商品なのです。だからこそ包装には、100%近いリサイクル率を誇るスチール缶を使いたいと思いました。

防災用スチール缶マッチは、付加価値という面で、もうひと工夫しました。缶にレトロ調やファンシー調のラベルを貼り、雑貨として部屋に飾れるように意匠性を高めました。お香やアロマオイル、葉巻などを楽しむとき、ライターで火をつけるのでは味気ない。マッチを擦って、軸木の炎が消えた瞬間、香りが広がる。そんな至福のひとときへとマッチは誘ってくれます。

いざというときの防災商品として、エコでオシャレなライフスタイルを演出する雑貨商品として、マッチは今、新たな役割と機能を担っています。(談)