東洋食品工業短期大学は、包装食品製造全体の知識や技術を体系的に学ぶことができる日本唯一の大学。創設から80年を超える歴史のなかで、保存容器の多様化や食の安全・安心の徹底など、時代とともに変化し厳格化する社会ニーズを先取りし、今日も製造現場の一線で活躍できる若者を輩出し続けている。

欧米との実力差を痛感。人材育成と商品開発の拠点を築く

1936年7月、アメリカ・カリフォルニア州で日本製のアサリ缶詰が原因とされる食中毒事故が起こり、日本の缶詰業界に強い衝撃を与えた。当時、欧米諸国の缶詰業界を視察し、日本の輸出缶詰の技術的な遅れを痛感していた東洋製罐社長(当時)の高碕達之助は、事故対応時にアメリカ当局と真っ当な技術論を交わす実力のなさに悔しい思いをした。日本の缶詰産業の技術力の低さに危機感を持った高碕は、将来の缶詰産業を支える若者の学び舎として38年に(財)東洋罐詰専修学校(現・東洋食品工業短期大学)を創設。千本克巳学長は創設の真意を語る。

「創設の目的は自企業の利益ではなく、もっと大きな見地から日本の缶詰産業全体の発展に貢献する人材を育てることにありました。缶詰産業全体が発展すれば食品・製缶各社も自然に発展を遂げることができます。また当時は、農産缶詰(果物・野菜類)が世界市場で大きなシェアを占めていましたが、海に囲まれた日本は水産缶詰が中心だったため、今後、農産食品の缶詰を開発し、世界市場に送り出せば日本の缶詰産業はさらに発展するという確信がありました。『人材育成』と『新商品の開発』という産業基盤強化の着眼は、54年に発売された日本初の飲料缶(オレンジジュース)など、その後の多彩な缶詰商品が生まれる礎になったといっても過言ではありません」

創設理念を継承しながら時代ニーズに応える人材を育成

1961年の学校法人への昇格後、66年には商品開発を加速させる研究部門を東洋食品研究所として機能分離し、同校は創設の理念を受け継ぎながら、市場ニーズの変化に合わせて金属缶だけではなく、ガラスびん、ペットボトル、プラスチックカップ、パウチなど多様化する食品包装・食品保存技術の広範な学問領域で、各種資格の取得を含めた人材育成に取り組んでいる。そのなかで最も大きな動きとなったのが、2017年度のカリキュラム編成の改革だ。

「それまで2コースに分かれていた『密封技術』と『食品製造技術』を、『包装食品工学科』の1コースに統合・集約しました。包装食品の品種が多様化するなかで、包装食品の製造工程そのものを構成する7分野と、それら全体を支える5分野の計12分野の授業科目を体系的に整備し、多彩な製品形態に加えて、素材調達から安全な製品づくりまで、包装食品製造の分野相互のつながりを意識し、俯瞰的に捉える視点を養っています(左図参照)。ただしいつの時代も、“食品原料を処理して加工する”“容器に詰めて密封し殺菌する”という容器詰め食品の基本機能と使命は変わりません。不変的な基礎や理論をきちんと教育した上で、時代ニーズの変化に応える幅広い知識と技術を指導するように心がけています」と、包装食品工学科長の鈴木浩司教授は改革の意図を説明する。

理論と実践の両輪で、即戦力になる人材を輩出する

また、同校が教育方針として特に重視しているのは、「知識習得(座学)」と「実習(現場)」の両輪だ。科目の6割を占める実技では、食材の加熱処理・切断、容器詰め、密封、殺菌まで製造プロセスのすべてを体得させる。あわせて密封後の容器内部の糖度や微生物の有無なども検査して評価し、改善につなげるPDCA※1を常に回している。

「品質の評価については、製造後の評価に加えて、各工程で抑えるべきポイントを整理・掌握して、どのような条件であれば良い品質になるのかを事前検証できるシステム管理のプログラムを拡充しています。現在の大量生産プロセスにおいて、製品の製造後に全数検査はできません。こういうパラメータの数値(基準値)だから結果的に安全な食品ができるという関係性、つまり“原理原則”を極めることに力を入れています。食品衛生管理についても、学生自らがHACCP※2プランをつくるカリキュラムを昨年スタートしました。製造プロセス全体と個々のつながりを見て常に原理原則に立ち返るアプローチは、今後、食の安全の徹底はもちろん、時代や技術がさらに変化しても重要な取り組みです」(鈴木教授)

さらに近年、製造現場にはデジタル化されボタンを押すだけのブラックボックス化した設備もある。同校ではあえて古い機械を使いメカニズムを教えることで、最新のデジタル設備の故障時も、原因究明と対策をスムーズに実行できる人材の育成に努める。

「大切なのは『担い手と実践』です。製造時の適正温度など教科書に書いてある数字を知っただけではだめで、実際に自らが“担い手”となり、計って熱いかどうかを確認・体感する“実践”が重要です。『殺菌釜に入れて○度で○分殺菌する』と教科書に書いてあっても、大規模な生産システムでは1つの釜に数万缶も入り、釜内での位置の違いによる温度差や加熱速度は実際に検証した経験がなければわかりません」(千本学長)

同校では現在、2学年合わせて約70人の学生が座学・実習に励む。なかには食品会社の社内研修の代わりに同校に派遣され2年間学ぶ学生もいる。卒業後、彼らは会社に戻って即戦力となり、現在、企業の中核的な役割を担っている人材も少なくない。また、缶詰生産の一大拠点であるタイ王国からの学生受け入れも継続的に行っている。

「『次世代の包装食品産業界を担う学生の育成』と『セーブフードや食の安全などの社会的問題に直結した包装食品技術の研究拠点としての活動』の教育ビジョンのもと、世界の食品産業界の発展に貢献できる人材を育て続けていきます」(千本学長)