1980年代から、変わらぬダンディさを持ち続け、ドラマや映画、テレビコマーシャルなどで活躍する俳優、渡辺裕之さん。そのたくましい肉体とあたたかいハートで、多くの人を魅了してきました。実は、14年ほど前から渡辺さんは朝のスロージョギングの最中にごみ拾いを始めています。そのごみ拾いがきっかけでさまざまな気づきがあり、世界中のごみ拾い仲間と繋がるような思いがけない経験をしているといいます。

僕が本格的にごみ拾いを始めたのは、14年ほど前からです。もともと小学校2年生のカブスカウト活動から、長くボーイスカウトの活動を経験していたので、街なかでごみなどを見つけたら自分から進んで拾うタイプでした。本格的に始めたきっかけは、家に遊びに来た友だちのひとりがその場で心筋梗塞になってしまったことから。もともと筋トレのような無酸素運動はやっていましたが、ジョギングなどの有酸素運動はやっていなかったので、「そろそろ身体のことを気にして運動しなくては」と思い立って、朝のスロージョギングを始めました。

スロージョギングはちょうど時速5キロくらい。家の近所から緑道に出て、そこをひたすら2.5キロほど行って帰ってくるだけなのですが、走っているとごみが目立つので拾うことになりました。次の日はレジ袋を持って走りながら目についたごみを拾ったのですが、それでも足りず、3回目からは45リットルの手提げ式ごみ袋を2枚と、予備をポシェットに入れて軍手をはめて、本格的にごみ拾いをすることにしました。素手では拾いません。最初はバーベキューで使うトングを使って拾っていたのですが、あるときごみ拾い用のトングをネットで発見して、それを使うようになったら瓶や缶も滑らず、とてもうまく拾うことができるようになりました。そんな日々のごみ拾いの様子をフェイスブックに投稿していたら、ごみ拾いを行う、世界中の人たちとつながることができました。ごみ拾い用のトングのメーカーの専務さんからも直接連絡をいただいて、なんと僕専用の特製トングまでつくっていただきました。そのトングをずっと愛用しています。

ごみ拾いを始めたころは「なんでこんなところにごみを捨てたんだ」と怒っていました。でも、1週間くらい経つと「しょうがないな」という気持ちになってくるんです。そのうちに「どうして捨てるんだろう?」と考え出すようになります。街には本当にさまざまなものが落ちていますよ。食べ残したもの、雨に濡れた雑誌、おしっこが入ったペットボトル……もちろん、捨てた人に甘えはあるでしょうが、多少後ろめたい思いをしながら、ついついやってしまったことかもしれません。そんな風にごみの背景にある事情に思いを巡らすことで、自分も成長させてもらっている気がします。

最初は拾ったごみを写真に撮って、それをSNSに投稿していたのですが、最近は踏みつけられるようなところに一生懸命咲いているごく小さな花を撮影して「今朝の美人たち」なんてタイトルにしてSNSに投稿したりして楽しんでいます。汚いものを拾うのできれいなものを見ると、心が安らいでバランスが取れることがわかりました。たまに車が止まったときなどに「ご苦労さんです」「ありがとうございます」と声をかけてくれる人がいるので、そういうときに、こんな自分でも世の中の役に立ってるんだなと実感できるのもいいですね。ごみ拾いは身体にも心にもいいんです。

「ごみ拾いは夢拾い」という言葉があります。これは街のごみ拾いを率先して行っているある方が言い始めた言葉で、その方は「感謝しながらごみを拾う」とおっしゃっています。すごく良い考え方ですよね。僕なりの「夢拾い」の解釈なんですが、例えば缶コーヒーのあき缶ひとつとっても、そのプロダクトが棚に並ぶまでにコーヒーの味を決める人、缶のデザインを考える人、安全性を守る人、工場で実際につくる人がいて、それを運搬して陳列して売る人がいるわけです。そんないろんな人の夢が詰まったものをお金を出して買ったのに、中身がなくなったらポイッと捨てちゃう。本当はその「夢」のなかに「缶のリサイクル」ということもつながっているのではないかと思います。