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科学の魅力はみんなの周りにちらばっている
伝え方1つで世界がもっと身近で面白いものになる

東京都市大学 教育開発機構 准教授/サイエンスエンターテイナー 五十嵐美樹さん[/caption]子どもたちに科学の楽しさを伝えるため、サイエンスエンターテイナーとして全国各地を飛び回り活動している五十嵐美樹さん。ストーリー仕立ての実験をとおして、身の回りに潜んでいる科学の力に感動する機会をつくり、自分たちが生活する社会ともつながっていることに気付くようなきっかけとなるショーは多くの人の心をとらえています。

「心が動く」科学実験を提供し子どもから世界まで魅了する

東京都市大学 教育開発機構 准教授/
サイエンスエンターテイナー
五十嵐美樹さん

五十嵐美樹さんは、科学が敷居の高いものではなく、楽しく身近なところにあるものだと感じてもらえるよう、エンターテインメント要素を取り入れた実験を考案し発信しています。子どもたちが集まるサイエンスショーでは、ヒップホップダンスをしながら生クリームをシェイクしてバターをつくる「ダンシングバターシェイク実験」などユニークであっと言わせる実験を繰り広げ、中学生や高校生にはSNSやテレビ番組などで物理や化学をわかりやすい言葉で解説しています。講演先では、科学に興味を持った学生たちに進路相談をされるほど、信頼を寄せられています。その評価は世界を飛び越え、2022年にはSTEM(※)分野に進む女性が少ないなかで課題に取り組んでいることと、ダンスと科学を融合した実験スタイルが評され、ドイツの『Falling Walls Science Breakthrough of the Year 2022』サイエンスエンゲージメント部門で「世界の20人」に選出されました。
※STEM:科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の総称。

五十嵐さんが科学実験を誰でも楽しめるエンターテインメントショーとして見せることにこだわり続けてきた理由は、幼いころの原体験にあります。
「子どものころは科学にまったく興味がありませんでしたが、『虹をつくる実験』で心を動かされたことを契機にその面白さに目覚めてのめり込んでいきました。活動を始めたときはアラカルト式に科学実験をするサイエンスショーをやっていたので、すでに科学に関心のある子どもしか集まってくれませんでした。

商業施設で突如始まるサイエンスショー

商業施設で突如始まるサイエンスショーかつての自分のような、科学に無関心な子でも気軽に参加して楽しめるものがつくれないだろうかと考え、まずは、実施する場所をショッピングモールやお寺、お祭り会場、道端などに変えました。そして、身近なものや低価格で簡単に入手できる材料、通りがかりに思わず見てしまう仕掛けとして特技のヒップホップダンスを取り入れました。その場に遊びに来た子が、まずは何か面白いことをやってるなと足を止め、実験を見て『これってすごい』と感情が動いたら、それが『好き』のタネになる可能性があります。こうした体験は忘れられない。ずっと覚えているものだと思うのです」(五十嵐さん)

 

スチール缶=鉄は唯一無二の面白い特性を持つ素材
その内にある物語を伝えると子どもに響くはず

図書館で行われたSDGsサイエンスショーの様子

昨今の子どもたちはSDGsや環境問題に対して関心が高く、自由研究などで社会問題が題材として取り上げられることも多くなってきました。そうしたなかで、五十嵐さんが大事にしているテーマ「社会とつながる科学」のもと、ストーリー仕立てで行われる実験内容は子どもたちの多くの感動ポイントを引き出しています。
「ショーに参加してくれる子どもたちはいろんなことをよく知っています。ただ、YouTubeなどで名前や物体は知っているけれど、これは何でできているのか、なぜこうなったのか、過程や経緯にまでなかなか考えが及んでいなくて聞きに来てくれる子もいます。そこに興味をもつようなきっかけづくり、自分事にできる体験を提供していく必要があると思っています。
例えば『リサイクル×鉄・スチール缶』でいえば、スチール缶の素材は鉄で、金属のなかで鉄だけが磁石にくっつく。しかもくっついた鉄自体が磁性を持って磁石と同じようになり、その他の鉄を引き付ける。この原理を利用し、ごみ集積場では大きな磁石を使ってスチール缶を回収していて、そのリサイクル率は90%をゆうに超えている。鉄の唯一無二の面白い特性、それを活用した収集方法、ひいては形を変えて社会や環境のためになっている。子どもが感動するポイントがたくさんありますよね。『そんなことってある?』『なんで?』といった驚きがあってワクワクする面白い素材なので、物語にしてわかりやすくインプットするような機会を創れたら、鉄にさらに興味を持つ子も増えていくと思います」(五十嵐さん)

現在、五十嵐さんは、今までの活動と並行して、自分の活動に賛同し科学を広め伝えることに興味を持ってくれる人を増やすべく、自身が准教授を務める東京都市大学の学生に実験の仕方や表現方法、伝え方などを教えています。また、保護者や大人に関心を持ってもらおうと書籍などの製作にも意欲的に取り組んでいます。
「1人で伝えるのには限界があります。科学を面白いと思ってくれた学生さんたちが、卒業して教育現場などで子どもたちに自分の感動ポイントとともに教えてくれる。保護者が本を手に取って『なるほど』『これなら』と思って購入してくださったら、そのお子さんが科学好きになってくれるかもしれない。いろんな人の力も借りて、科学の魅力をより多くの人に伝えていけたらと思っています」(五十嵐さん)
 

取材協力・写真提供:株式会社ワオ・コーポレーション