他人と幸せを共有できる感性があれば、 きっと街も人も変わると思う。 でも、今、僕らが変わらないと、 この国の未来は、取り返しのつかないことになるだろうね。
浅井愼平(写真家)
僕は、仕事柄さまざまな街に出かけますが、最近街がどんどん汚れていくのがすごく気になります。中でも日本はひどいと思う。
結局のところ、環境問題は人の心の荒廃に一つの原因があると思うのです。
人は他人と一緒に生きているのだということを、忘れてしまった。世の中にモノがあふれて便利になりすぎたせいなのか、自分の幸せばかり求めるようになってしまいましたね。
そもそも本当の幸せとは、自分だけが幸せになることではない。本当の幸福は、自分だけでなく、同時に他人も幸福でないと得られないもののはずですよ。例えば恋人の幸せが自分の幸せであり、家族の幸せが自分の幸せなんだというようにね。
ポイ捨てが増えたのも、自分の幸せしか考えられないからです。自分さえ良ければいいと思うから、平気で街を汚すことができる。自分の街なんだという意識がなく、国や行政という他人の持ち物だと思ってるのでしょう。
自分の街さえきれいにできない人間に、未来はないですよ。これから僕たちがどういう生き方を選択するかによって、世の中はとんでもない方向にいくんじゃないかな。
だけど、僕たちが変わるためのヒントはいくつかあると思います。
例えば、今年行われたW杯で、日本人は、世界共通のコミュニケーションとしてのサッカーに出会いました。それは、今までサッカーを全然知らなかった人たちが、試合を通じて、世界と感動を共有する幸せを知った瞬間でもありました。
特に韓国とトルコが戦った3位決定戦の試合後、トルコの選手と韓国の選手が手を取り合ってお互いの栄誉をたたえる姿は、観る者全てに感動を与えましたよね。その時、僕らは同じ幸せを共有することができました。
そんな風に幸せを共有する喜びを知ることで、何かが変わるかもしれません。
だって、その試合の後、球場や街中で熱狂していた若者たちが、協力しあって足元のゴミを拾ってましたよね。感動を共有したことで、自分本位にならずに、人や街に対して思いやることができたんじゃないかな。
頭で考えてもだめです。自分の頭と心、五感で感じること。感じたことを、遠慮せずに実行すること。きっとそういうことなんだと思いますよ。(談)
1937年愛知県瀬戸市生まれ。1965年日本広告写真家協会賞受賞。翌年、写真集「ビートルズ東京」でメジャーデビュー。写真にとどまらず、映画、文藝、工芸、CDリリースなどジャンルを超えた創作活動を行っている。1991年には、千葉県千倉町に「海岸美術館」を設立。現在は、テレビ「サンデーモーニング」(TBS)、「シネマパラダイス」(NHK-BS)などにも出演。