1. HOME
  2. STEEL CAN AGE
  3. Vol.14
  4. HAND IN HAND
  5. スチール缶1個が世界につながるWFP国連世界食糧計画の学校給食プログラム

STEEL CAN AGE

HAND IN HAND

スチール缶1個が世界につながる

WFP国連世界食糧計画の学校給食プログラム

循環型社会の形成に向けた法整備が一巡した中、地域社会で環境問題に取り組む動きが全国各地で見られるようになってきた。今回は、循環型社会実現に向けたその土地ならではの特色あふれた活動内容を表彰し、シンクタンク機能を果たしながら情報を共有化するためのネットワークづくりに取り組むNPO法人「持続可能な社会をつくる元気ネット」の活動を紹介する。

 

1日20円。子どもたちに栄養と教育を

食糧が十分にない家庭の子どもたちは、空腹のため学校に行っても注意力が散漫になり、学習意欲や能力が低下する。また、農作業や幼い兄弟たちの世話などで学校に通わせてもらえない子どもたちも多い。これを改善する活動が学校給食プログラムである。「子どもたちは1日1回、栄養価の高い食事をとることができ、家族の食費もそれだけ軽減されます。給食をきっかけに就学率もアップしますし、ドロップアウトする生徒の数も減ります」と、北村さんは説明する。実際に今回訪れたブータンの初等教育就学率は約80%に達している。

また、女子教育促進のため、出席率の良い女性生徒に食用油や米などを配給する「持ち帰り食糧プロジェクト」も実施されている。女子の識字率が向上すると処方箋が読めるようになり、出産時や乳幼児の死亡率が圧倒的に下がるという。「単なる食糧支援ではなく教育の機会を拡げることで将来的な自立を促すことにつながります。子どもたちへの食糧援助は、1日1人当たり20円で実施できます」(北村さん)。

 

食糧支援だけでなく地球環境にも貢献

ブータンではWFPの活動によって調理用の新しい薪ストーブが導入されつつあり、2004年度の日本からの寄付金で30基のストーブが設置された。このストーブは熱効率が良く、今までの半分の量の薪で調理することができCO2の排出抑制にもつながる。さらに煙突を設置するため煙が調理場に充満しなくなった。それまでは、煙のために調理師が目の炎症や呼吸器系障害を起こしたり料理の味が変わることもあったという。

ブータンは国の政策として環境保護と教育を挙げている。新しいストーブの導入は、1校あたりの薪の使用量を年間360トンから180トンに削減し、その浮いた予算でおかずを一品増やしたり、子どもたちにノートを配布するなど、学校の食・教育環境の向上に役立つ。「ブータンの教育省の方から“新しい薪ストーブは森林保護に貢献するとともに、子どもたちにもメリットをもたらす本当に素晴らしい調理器具だ”と非常に感謝されました」と、北村さんは笑顔で話す。

 

ものを大切にする心を教わる

「WFPのあき缶を洗って貯めて、インド国境近くの町で換金して調理器具などを買っているそうです。容器まで最大限に利用されていることにとても感動しました」(北村さん)。ブータンは国土の60%以上の森林を永遠に保護することを決め、道路などの整備も環境を破壊しないように行われている。「土に還らないものはなるべく流通させないとの考えから、買ったものはビニール袋ではなく紙袋に入れてくれますし、ペットボトルのリサイクルも徹底しています。ものがあり余る日本は呼びかけないとリサイクルをしない社会です。限られたもの全てを有効に使い、自然を守ろうとしているブータンには教えられることがたくさんありました」(北村さん)。

 

スチール缶1個が、世界の飢えを考えるきっかけになる

当協会は、スチール缶をリサイクルすることが世界の貧しい子どもたちの支援につながることを広く知ってもらうとともに、WFPの活動を日本の子どもたちに紹介し、環境保護や世界の貧困について学んでもらうことも計画している。「1個の缶が世界のどこかで支援につながっていると思えたら素晴らしいですね。日本の食料総廃棄量は約2,000万トン(2004年 農林水産省)、世界に援助されている食糧総量は1,000万トン(2004年 FAO国連食糧農業機関)。日本は世界に援助できる食糧を日々捨てていることになります。身近な缶のリサイクルが、この日本の現状や貧困で苦しんでいる人が世界にはたくさんいることを、思い出したり考えたりするチャンスになってほしいと思います」と、北村さんは当協会の活動を評価する。

ブータン政府は、経済的指標であるGNP(国民総生産)ではなく、「GNH:GrossNational Happiness(国民総幸福)」の追求を掲げている。国王も子どもたちも同じ民族衣装を身にまとい、伝統的な建築様式や文化、助け合いの精神を守るなど、貧困の中でも、民族のアイデンティティや財産をとても大切にしている。

「尊厳と誇りを持って前向きに生きるブータンの人々は人間的にとても豊かでした。援助される側がリスペクトされるべき存在だと心から感じました」と、語る北村さん。大量に作ること、使うこと、捨てることは決して“あたりまえ”ではない。世界や環境に少しでも貢献できる国や人のあり方を北村さんを通じブータンから教えられた。