「環境教育・環境学習」のススメ
ー今日からはじめようエコライフー
多様化し複雑化する今日の環境問題を解決するためには、社会経済活動やライフスタイルそのものを環境負荷の少ない構造に変えていくことが不可欠であり、地球環境を大切にする意識を持ち、地球環境にやさしい暮らしを実践できる資質や能力を育てる[環境教育・環境学習]の重要性がクローズアップされている。
21世紀を担う子どもたちに対して、大人たちはいま、どのような方法でその願いを伝えようとしているのか。持続可能な社会の実現を目指す[環境教育・環境学習]の現在と未来についてレポートする。
《学校教育の現場》
生活と環境の結びつきをみつめ
循環の視点で[生きる力]を育てる
文部省では、2002年度から実施される完全学校週5日制のゆとりある教育活動の中で、一人ひとりの子どもたちに[生きる力]を育てようと、新しい学習指導要領で「総合的な学習の時間」を新設した。この施策を受けて学校教育の現場では、「総合的な学習の時間」のテーマの一つである[環境教育・環境学習]に熱い視線が注がれている。そこで、1995年度から3年間にわたり文部省指定・研究開発学校として「総合学習の創造」に取り組んだ、東京学芸大学教育学部附属大泉小学校での実践を紹介しよう。
飲料容器からごみ問題・リサイクルの本質に迫る
東京学芸大学教育学部附属大泉小学校における総合的な学習は、子どもたちにとって価値ある内容を「国際」「環境」「人間」の「3つの視野」に整理し、各教科の学習に加えて、教科の枠を超えた総合学習の時間を1年生から設定している。その中で環境単元は、「自分の生活と環境の結びつきをみつめ、自ら働きかけることを通して、価値を判断し、選択し、生活や生き方に生かす力を育てる」「循環・共存の視点をもって、問題を解決する」ことと位置づけ、自然環境から社会環境に至るまでさまざまなカリキュラムが組まれており、5年生では「びん・缶・ペットボトル、君ならどれを選ぶ?」というテーマで、飲料容器からごみ問題・リサイクルを考える学習が行われている。
この学習を指導した山崎幸一教諭は「高学年ともなると子どもたちは、環境にとって何がよくて何が悪いかを少なからず考えながら生活しています。しかし、だからと言って子どもたちが環境のことを考えて、自分から積極的に生活を工夫しているかというと、なかなか具体的な行動には結びついていません。例えば、子どもの生活に密着している飲料容器が、使い終わった後どうなるについても具体的にはまったく知りません。ですから、この学習では、飲料容器を通して身の周りの多くの物がリサイクルできることを意識し、循環の視点で自分たちの生活を見つめ直し、身近なところからライフスタイルを変えていける子どもを育てたいと考えています」とその狙いを説明する。
《学校教育の現場》
生活と環境の結びつきをみつめ
循環の視点で[生きる力]を育てる
問題意識を持って情報収集し話し合いで考えを深めていく
ここで実際の授業の様子を紹介すると、まずはじめに、びん・缶・ペットボトルの3種類の容器に入ったジュースを見せて、「自分が買うならどれにする?」と問いかける。子どもたちはそれぞれ自分が選んだ理由を発表していく中で、「リサイクルされているって、聞いたことがある」「テレビでやっていた」という意見に対して次第に興味が集まっていく。しかし、これらの容器が一体どのようにリサイクルされているのかというと実感は今ひとつなく、「自分の家で使った容器は、清掃車で集められて夢の島に捨てられているのでは」と思っている子どもも多かったという。
そこで次に、自分が選んだ容器がどのようにリサイクルされているのかについて、グループを組んで調べるように働きかける。子どもたちは本や資料、インターネットで調べるばかりではなく、清掃局や飲料メーカー、販売店に問い合わせたり、保護者や近所の大人にアンケート調査をしたり、さまざまな方法で情報を集め始めた。「自動販売機にコーラを入れに来る会社の人が、あき缶をついでに持って帰るらしい」「使えないガラスびんは、くだかれてもう一度ガラスの原料にされるらしい」「スーパーで集められたペットボトルは、業者がリサイクルセンターに持っていって、つぶされるらしい」など、子どもたちは調べたことを伝え合い、リサイクルを含めたさまざまな観点から、それぞれの容器のよさについて話し合い、考えを深めていった。 こうして、使い終わった後のびん・缶・ペットボトルの行方を追いかけていくことで、子どもたちはどの容器もリサイクルセンターに集められていることを突き止めたが、なかには「びんは洗って再利用されていないと思う。そんなの汚いから」「びんや缶、ペットボトルをいちいち分けて工場に戻すことは面倒だから、誰もやっていないのではないか」と疑問視する声もあがったという。そこで、クラスでは実際にリサイクルセンターへ行って、さらに容器リサイクルの現状に迫っていくことになった。
多様な探究活動を通して自分の生活を見つめ直す
訪問先は、社会科見学のように教師側が決めたのではなく、子どもたちが探し当てた施設へ行くことになった。そこは、学校近くの東京都練馬区に住む子どもが月に何度か日曜日にあき缶やあきびんを回収している作業員に尋ね、見つけた区委託のリサイクルセンターであった。
見学当日は説明を聞くだけでなく、2時間にわたって回収された容器を分別する作業を体験した。子どもたちは、分けても分けても次々に現れるあき缶、あきびんの山に驚き、両手にはめた軍手は容器に残っていたジュースやお酒にまみれ、汗だくになりながら分別作業を経験することで、「たくさんの人たちによってリサイクルシステムが完成していることを実感した」「あき缶の中にタバコの吸い殻がたくさんは入っていて、マナーが悪いよ」といったさまざまなことを感じ取っていった。
そして数日後、学校でもう一度話し合う。子どもたちはこれまでの学習で得た情報と体験を通じて、使い終わった容器は地域で決められたルール通りに分別排出すれば、ごみとして捨てられることなく、リサイクルの流れにのって再利用されていく循環システムを理解し、「リサイクルは大人がやることだと思っていたけど、子どもでもできることがあるんだ」と気づき、自分たちの生活を見つめ直すきっかけとなった。
学習の成果について、山崎教諭は「自分の調べたい意図を相手に伝えて調査したことや、それに対して大人が真面目に受け答えしてくれたことで、社会と関わる追究活動に自信を持った子どもたちが多くなりました。そして、子どもたちはその追究活動を通して、感情や思いつきだけでなく、根拠を持って意見を言うことの大切さを実感できたと思います」と自負する一方で、課題として「何を学ぶのかという[内容知]、いかに学ぶのかという[方法知]、自分の生き方にどう結びつけるのかという[自分知]を、教師側が常に念頭に置いて子どもたちを支援していかなければ、なかなか子どもたちの意識はごみやリサイクルの問題にまで広がっていきません。また逆に、子どもたちの問題解決への意欲が高まれば、学習の場は無限に広がっていくため、教師側が用意していた場所や人材だけでは、むしろ子どもの活動を制限して学習意欲を阻害してしまう恐れもあります。今後、学校と家庭ばかりではなく、学校と社会が連携して子どもを育て、社会全体が教育の場といった考え方で子どもたちの学習を受け止めてくれれば、総合的な学習は子どもたちにとって有意義な学習になるものと思います」と話している。
《国の施策》
持続可能なライフスタイルや
社会経済システムの実現をめざして
[環境教育・環境学習]は、1993年に制定された環境基本法25条で法制上その振興が明確に位置づけられ、翌94年閣議決定された環境基本計画で、環境に関心を持ち、環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全活動に参加する態度や環境問題解決に資する能力を育成することを通じて、国民一人ひとりを具体的行動に導き、持続可能なライフスタイルや社会経済システムの実現に寄与するものと意義づけられたことを契機に、各省庁では21世紀を担う子どもたちに向けて、さまざまな関連施策を展開している。
2002年の教育改革のカギを握る 学校・家庭・地域の連携をサポート
まず文部省では、96年中央教育審議会第一答申や98年教育課程審議会答申において、[環境教育・環境学習]の重要性やその一層の充実が提言されたのを受け、98年10月に告示された新しい学習指導要領では「総合的な学習の時間」を設け、各学校が創意工夫して子どもたちが総合的な視点で「環境」をとらえられるようなカリキュラムづくりに新たな道を開いている。「総合的な学習の時間」は、小・中学校で2002年度から全面実施されることになっているが、移行期にある現在、前述のレポートのように一部の学校ですでに「総合的な学習の時間」を視野に入れた[環境教育・環境学習]の実践が始まっている。
この他にも、文部省では学校教育における[環境教育・環境学習]を推進する施策として、環境教育のあり方についてパネルディスカッションや成果発表などを行う「環境学習フェア」の開催、学校・家庭・地域が一体となって環境教育の推進に取り組む「環境教育推進モデル市町村」の指定、学校において子どもたちが主体となって環境観測と世界的な環境データを共有して地球に関する科学的理解を深める「環境のための地球学習観測プログラム(GLOBE)モデル校」の指定、学校の施設を環境に配慮したものとする「エコスクール整備モデル事業」の実施などが展開されている。
また、完全学校週5日制が実施されると、学校ばかりではなく家庭や地域での子育てがますます重要となることから、文部省では地域社会における[環境教育・環境学習]を推進する施策として、2001年度までに地域における子どもの活動を振興する「全国子どもプラン(緊急3ヶ年戦略)」を策定している。このプランでは、夢を持ったたくましい子どもを地域で育てることを目標として、自然体験などの活動の機会と場を提供するため、さまざまな事業が各省庁と連携して展開されている。例えば建設省、環境庁と連携した「子どもの水辺」再発見プロジェクト、環境庁と連携した「子どもパークレンジャー」事業、農水省と連携した「子ども長期自然体験村」の設置、科学技術庁と連携した「子ども科学・ものづくり教室」の開催、通産省と中小企業庁が連携した「子どもの商業活動体験-子どもインターンシップ-」の実施などがある。そしてさらに、各地で自然体験や環境学習を積極的に進めていくため、地域における子どもの体験活動についての情報を提供する体制の整備も進めており、「子どもセンター」を全国1,000カ所程度に設置する予定となっている。
地域の素晴らしさを自覚することで 環境保全を促す
次に環境庁の主だった施策についてみると、地域における学習機会の提供として、「こどもエコクラブ事業」が実施されており、子どもたちが主体となって地域の中で仲間とともに環境保全や環境学習に取り組む活動を支援している。この事業は99年度現在、約4,300クラブ・7万1,000人の全国の小・中学生が参加し、生きものの調査や町のエコチェック、リサイクル活動、川の水質調査、家庭内のエネルギー消費量の調査といった多彩な活動を展開している。この他にも多様な学習機会の充実と体験を重視した学習の実践として、樹木の二酸化炭素などの吸収量から樹木による大気浄化能力を調査する「こども葉っぱ判定士事業」、河川にすむ水生生物を調べ水質の状況を知ることにより環境問題への関心を高める「全国水生生物調査」、夏と冬の年2回星空を観察することで大気環境の状態を調査する「全国星空継続観察」などが実施されている。
また環境情報・ネットワークの拠点として、国連大学と共同で「地球環境パートナーシッププラザ」を設置している。ここでは、NGO、企業、行政などの幅広い主体が実施している環境保全の取組に関する資料の収集や情報の発信を行っている。さらに人材の育成・確保という点では、96年から「環境カウンセラー登録制度」を実施している。環境カウンセラーとは、環境保全活動を行おうとする市民や団体、事業者などに対して、自らの専門的知識や豊富な経験を生かしてアドバイスなどを行うスペシャリストで、99年度までに累計2,229人が環境カウンセラーに登録されている。
この他にも新規施策として、環境庁では99年度から「環境学習支援事業」を実施している。この事業は地域の中での体験活動などを通じて環境問題についての関心と理解を深め、環境負荷の少ない生活を自ら実践することを促すような[環境教育・環境学習]に関する体系的なプログラムを開発し、普及を図るもので、その第一弾として廃棄物・リサイクルに関する学習支援プログラムの開発が昨年度に行われた。
《国の施策》
持続可能なライフスタイルや
社会経済システムの実現をめざして
環境基本計画を見直し 中長期的な展望を切り拓く
子どもたちを対象とした[環境教育・環境学習]に関する国の施策だけをみても、このように多種多様な事業が展開されているが、その一方で国は99年6月から現行の環境基本計画を見直す審議を重ね、21世紀に向けて新たな展望を切り拓いていこうとしている。
環境基本計画は計画策定後5年程度をメドに見直すことが規定されており、99年10月には内閣総理大臣から諮問を受けた中央環境審議会が、「環境基本計画は理念から実行への展開の段階にあるという認識の下に、持続可能な経済社会の具体像とそこに至る道筋を提示することを主要なテーマとし、国際的な視野に立ち、現行計画の実施状況を踏まえ、計画の構造の重層性の確保、各主体の参加の確保に留意しつつ、計画全体に係る見直しを行う」とその基本的方向性を示し、各論的事項の一つとして「国民の環境に対する意識を高め、行動を喚起するための政策の在り方(環境教育等)」を掲げた。これを受けて、環境教育等検討チームが設置され、今年5月に「環境教育等検討チーム報告書」がまとめられている。
「環境教育等検討チーム報告書」では、99年に中央環境審議会が答申した「これからの環境教育・環境学習-持続可能な社会をめざして-」を踏まえて、今後の[環境教育・環境学習]に関する施策の中長期的な展望を提言している。そこで、まず答申内容について紹介すると、[環境教育・環境学習]の実施にあたってのポイントとして「総合的であること」「目的を明確にすること」「体験を重視すること」「地域に根ざし、地域から広がるものであること」を指摘した上で、推進の方向として「場をつなぐこと」「主体をつなぐこと」「施策をつなぐこと」の3点をあげて、個人が生活する学校や家庭、企業などのさまざまな場において、行政や事業者、民間団体、国民などの主体が連携・協働しながら、さまざまな施策を横断的・総合的につないで実施することが重要であると強調している。
報告書では、この答申の考え方を踏まえて、「国民一人ひとりを中心に位置付けて、地域の行政が、NGO、企業、その他の団体を含めた連携の中で環境教育・環境学習に関する様々なサービスを提供できるように、環境教育・環境学習のネットワークを形成し、国はこうした地域における環境教育・環境学習を支援するためにハードとソフトを含めて基盤整備を行うという発想の転換が必要」として、トップダウンではなくボトムアップの行政手法のもと、環境行政が強力に推進されていくことに期待を寄せている。
[環境教育・環境学習]の担い手として、さまざまな主体の役割が期待される中、あき缶処理対策協会は公共的な民間団体の一員として、幼児や小学生といった子どもたちから社会人や高齢者といった大人たちまであらゆる年齢層に対して、使用済みスチール缶の散乱防止・環境美化、スチール缶リサイクルの推進のためにさまざまな活動を行っていく中で、これからも[環境教育・環境学習]の推進に努めていく。