“急がば回れ”の環境教育
~素材を学び働く人々の姿を感じた子供たちは、モノも人も大切にする~
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お金で判断するあき缶回収に危機感
「スチール缶はお金にならないからリサイクルされないの?」地域のクリーン作戦の時に聞いた子供たちの言葉に、河野さんは愕然とした。昨今の学校やボランティアによる資源ごみ回収活動の中には、金銭価値の高いアルミ缶しか回収しないケースがあり、一部の子供たちがごみ収集場からアルミ缶だけ取り出して学校の回収に持ち込み、「リサイクル活動に参加した」と勘違いしている事態が起きていた。
「スチール缶やあらゆる素材は地球の大切な資源なのに、『金銭価値の高いモノのみリサイクルすればよい』と子供たちに誤った認識を植えつけてしまうと危機感を持ちました」と河野さんは振り返る。そこで、各種製造業や地域の人々によって2000年に「北九州美しい地球を守る会」が発足した。同会では地域の学校やボランティア団体と連携した「すべての缶を集める活動」やリサイクルアートによる啓発活動を行うとともに、河野さんがゲストティーチャーとして教育現場に赴き、リサイクルの身近な教材として「鉄」を取り上げた環境教育を行っている。
本質を捉えた環境教育を実施
北九州市は製鉄所をはじめさまざまな工場が集まるモノづくりの街だが、子供たちの素材への関心は薄れつつある。そこで、スチール缶のリサイクルを皮切りに、鉄が地球の重量の約3分の1を占め、人体にも欠かせないことや、人類の歴史に深く関わりを持つこと、製鉄所で鉄は何度もリサイクルされ、鉄を作る工程の中でプラスチックのリサイクルもできること等を説明する。すると、子供たちは好奇心を持って理解していく。
「鉄は産業の基盤で人間にとって大切なものであると理解し、鉄のリサイクルを入り口に、すべての素材のリサイクルの仕組みを根本から分かってもらいたい」と河野さんは語る。実際に製鉄所を見学し、働く人たちと交流する機会も設けている。
「嬉しかったのは、授業の最後に、モノを作るにはやはり働く人の心が必要だと子供たちが言ってくれたことです。一つのスチール缶には、いいモノを作ろうと多くの人が関わっている。そのことが分かった子供たちはモノを大切にし、人の気持ちを考えられる思いやりも持つようになると思います」
以前はごみが散乱していた場所も、最近は子供たちが目を光らせて大人を注意するようになった。昨年9月から担当する中原(なかばる)小学校では、地元にゆかりのある日本の古代製鉄法“たたら製鉄”に子供たちが興味を示し、今年1月、鉄鋼メーカーや北九州市、地元の高校生、大学生も一緒になって、たたら製鉄の再現を行った。環境教育という一つの芽から地域の活性化へと、さらに広がりが生まれた。最後に河野さんは次のように語る。
「ただごみを拾いなさいと言っても決して改善されません。時間はかかっても回り道した方が結果として近道になります。そして正しい環境教育を通じて、子供たちの本質である『夢を現実にする』ということを応援していきたいですね」