環境負荷軽減の極限に挑み続ける「スチール缶リサイクル」
ー「自主行動」と「連携」で循環型社会実現へ
今回は、2010年度を目標に取り組む「自主行動計画」の内容について紹介する。
リサイクル八団体が自主的に連携する史上初の試み
(社)日本経済団体連合会(経団連)では、2005年10月、「提言:実効ある容器包装リサイクル制度の構築に向けて」を取りまとめ、事業者は容器包装の素材グループごとに「自主行動計画」を策定し、容器包装の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進に一層努力することの重要性を明言した。しかし、法改正における自治体費用の一部事業者負担に対しては「効果のない費用負担の見直しには反対」の姿勢を貫いている。
こうした提言内容を受けて、容器包装のリサイクル八団体(※)は、昨年12月、「容器包装リサイクル法(以下、容リ法)の目的達成への提言」を行うとともに、八団体の連携・調整強化を目的に、「3R推進団体連絡会」を結成した。これは消費者への普及啓発や各種調査・研究事業など、各団体の共通テーマへの取り組みを自主的かつ共同で行う初の試みだ。経団連の協力を得ながら、未加盟の容器包装利用事業者団体への協力も呼びかけている。
そして、「容リ法改正案」閣議決定後の今年3月28日、八団体は事業者としての決意と具体的施策を盛り込んだ「事業者による3R推進に向けた自主行動計画」と「主体間の連携に資する取り組み」を公表(写真1)。各素材ごとの3R推進・取り組み強化はもちろんのこと、各素材領域を超えた総合的な観点からリサイクル社会の構築に取り組むことを表明した。
「事業者による3R推進に向けた自主行動計画」では、2010年度の計画完遂を目指し、八団体ごとにリデュース、リユース、リサイクルの取り組み目標・項目が設定された。取り組みの結果は毎年公表され(2004年度比)、結果に基づくフォローアップを実施する(図1)。
「主体間の連携に資する取り組み」については、従来、八団体それぞれがさまざまな広報活動・調査研究事業を実施してきたが、今後、消費者・自治体・国との連携を念頭に、団体間の情報交換・連携を強化して、消費者に対する普及啓発活動や各種調査・研究活動を実施していく予定だ(図2)。
積み重ねた実績の評価をベースにさらなる挑戦を
今年4月、「3R推進団体連絡会」では、これまでの実績・分析・評価を踏まえて、「容リ法」に対する基本姿勢を発表した。まず前提となるのが、現行の「容リ法」は、消費者・市町村・事業者の適切な役割分担によって着実に成果を挙げているという現状認識だ。「容リ法」は、消費者(分別排出)、市町村(分別収集)、事業者(再商品化)という三者の役割分担で成り立っている。その中で、プラスチック・紙製容器包装を加えた完全施行からまだ6年しか経っていないにもかかわらず、埋立地の延命化や焼却処理施設の縮小など、市町村のごみ処理行政の効率化に寄与してきた。
一方事業者は、再生利用(リサイクル)はもちろんのこと、容器包装の軽量化(薄肉化)やプラスチック製詰め替え容器の普及など、排出抑制(リデュース)と再使用(リユース)に対してもさまざまな自主的努力を進めてきた。
「3R推進団体連絡会」ではこうした成果をさらに高めていくために、これまで以上に各主体がそれぞれの役割を徹底・深化させ、個々の取り組みをベースに主体間の連携を強化していくことを重要テーマとして掲げている。まず、消費者は適正な分別排出を徹底し、市町村は分別収集の合理化・効率化を推進する。そして事業者は、3R推進の自主行動計画を実行するとともに再商品化手法の高度化を図る。
また、主体間の連携強化の観点から、3R推進のための普及啓発・環境教育も行っていくとともに、分別排出・収集から再商品化に至るシステムの高度化・合理化を目指す。
トップランナーとしてさらに上を目指す「スチール缶」
こうした素材横断的な取り組みの中で、スチール缶リサイクル協会では、他の主体との連携・協力を進めながら、「自主行動計画」に基づく対策を実行し、環境負荷低減と社会コスト削減を図るとともに、協会活動の理念の根幹を成す「循環型社会の形成」を目指す。
今回の「容リ法」の見直しにあたって、市場原理によってリサイクルされ、高いリサイクル率を実現しているスチール缶とアルミ缶は、従来通りのシステムが継続されることになる。
関連業者がリサイクル費用を負担するプラスチック製包装容器などとは異なり、素材メーカーや製缶メーカーの費用負担は盛り込まれていない。しかし、スチール缶リサイクル協会では、容器包装リサイクルのトップランナーとして、容器包装全体での最適化を視野に入れた「3R推進活動」に積極的に取り組んでいく。
ここでその活動の軸となる「自主行動計画」の内容について紹介しよう。
スチール缶関連業界では2004年度を基準として、まず「リデュース」については、新たな技術開発を通して「2%の軽量化」を図ることを目標としている。
スチール缶は長年の素材・製缶技術開発によって大幅な軽量化(薄肉化)を実現してきた。例えば、当初75gあった350ml缶は現在28g(63%軽量化)に、40gあった190ml缶は32gまですでに軽量化されている。スチール缶は、省資源・コスト削減のために軽量化が求められる一方で、安全性維持のための強度も必要なため、これ以上の薄肉化には対しては極めて高い技術的ハードルがある。しかし鉄鋼メーカー、製缶メーカーでは新技術開発への挑戦を通して、2010年までにさらに「2%」の軽量化を目指す。
「リサイクル」では、2005年に「88%」にも及ぶ高いリサイクル率を達成しているため、まずその優れたリサイクルシステムを維持・向上させていくことが前提となる(グラフ1、2)。30年以上にわたるリサイクル推進活動を通して確立した、磁力選別や再資源化のための受け皿(国内製鉄工場75ヵ所)、高品質な再生品、豊富な市場といった周辺環境をさらに充実させていく。
今後の具体的な取り組みの一つは、運搬効率を高める「潰しやすい容器開発」だ。スチール缶には炭酸飲料に使われる陽圧缶と、コーヒー飲料などに使われる陰圧缶があり、陽圧缶は缶の壁厚(製品の板厚)が約0.1mmと薄く潰しやすい。しかし、陰圧缶は品質・安全性確保を目的に高温高圧下で殺菌消毒(レトルト殺菌)するため、缶内圧力の変動に耐え得る強度を維持できる一定の板厚(現在約0.2mm)が必要になる。この陰圧缶に対しても強度を確保しながらさらなる薄肉化を図り「潰しやすい」容器開発に挑む。
また、改正案の審議の過程で、3R推進の普及啓発・環境教育の一環として「集団回収・店頭回収」の拡大が重要な施策の一つとして取り上げられたが、協会では、すでに現状把握のための調査を開始している。
培った「鉄」の信頼関係をベースにリサイクルの輪を広げる
スチール缶業界では、これまで消費者・NPO・自治体・国などの各主体と連携して、スチール缶リサイクルに関する調査・研究・普及啓発・環境教育に取り組んできた。
1976年には「廃棄物資源化研究会」を立ち上げ、自治体・NPO・学界研究者などと共同で、最終処分場の延命化や枯渇資源の有効活用などの課題解決を目指した。それらの調査・研究の過程で、再資源化に不可欠な家庭ごみの分別排出・収集システムの構築にいち早く取り組み、1991年から、分別収集・処理の仕組み作りを推進するため、課題を抱える自治体の資源化施設への支援を行うとともに、自治体による分別排出・収集・処理推進の一助となる調査結果を「スチール缶リサイクルマニュアル(資源化施設編)」(1994年発行)と、「スチール缶リサイクルマニュアル(分別収集編)」(1996年発行)として編纂し提供した。
さらには、スチール缶に限らず環境全般の観点から、1997年に「散乱ごみ測定マニュアル=まちを美しくするために」、2001年には「まち美化ハンドブック」を発行し、情報提供による自治体との連携を深めている。
スチール缶リサイクル協会では今後も、自らの役割を着実に実行するとともに、長年培った自治体などとの信頼関係をベースに各素材の領域を超えた課題解決に取り組み、環境と経済が調和した持続可能な循環型社会づくりの一翼を担っていく。