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早稲田商店会発、環境を切り口にしたまちづくり

早稲田大学本部キャンパス近くにある早稲田商店会(東京都新宿区)は、全国で初めて環境を切り口にした商店街の活性化を実現した。「楽しくて、お客もお店ももうかるリサイクル」を掲げ、ユニークな仕組みづくりを次々と展開。学生や専門家、企業などさまざまな人が活動に携わり、地域全体が「環境のまち 早稲田」として動き始めた。修学旅行の見学コースにもなり、全国の商店街からの視察も相次いでいる。
なぜ、環境をキーワードにしたことが商店会の活性化につながったのか。
今回は、早稲田商店会の取り組みを紹介する。

 

スタートは商店街の夏枯れ対策

早稲田の町には、早稲田大学本部キャンパスを中心に7つの商店街がある。早稲田大学の学生と教職員を合わせた約3万人に対し、地域住民は約2万2,000人。そのため大学が夏休みの2カ月間、商店街は閑散とする。

1996年春、「夏枯れ対策としてイベントをやろう」と当時の商店会長・安井潤一郎さんが企画し、早稲田商店会の取り組みが始まった。当時は東京都が事業系ごみ全面有料化の政策を出した時期で、環境というキーワードが注目されており、イベントのテーマを“環境”とした。早稲田商店会の久保里砂子さんは次のように語る。

「大掛かりなイベントをする予算はありませんし、早稲田大学の近くなのでアカデミックなことをしようと、大学の敷地を借りて環境をテーマにしたイベントを行うことになりました。とはいえ、環境に対する知識はほとんどないため、幅広い方々に声をかけて実行委員会をつくり知恵とノウハウを結集しました」

同年8月に早稲田大学や新宿区の協力を得て、「第1回エコサマーフェスティバル in 早稲田」が開催された。環境のイベントでごみを出すのはみっともないと、「ゼロ・エミッション(ごみゼロ)実験」を実施。環境関連機器メーカーに交渉し、あき缶やペットボトルの回収機などの実演も大隈講堂の前で行われた。

あき缶回収機は缶投入後、缶をつぶしている間に液晶画面でゲームができ、勝つと当たりのラッキーチケットが出てくる。このチケットを商店会のサービス券にした。例えば、中華料理屋さんの「ラーメンご注文の方に餃子一皿プレゼント券」、特賞「7万円相当のホテル無料ペア宿泊券」といった具合だ。イベント当日は、回収機の前に大勢詰めかけ、あき缶1,300缶、ペットボトル130本を回収した。分別回収したごみを重量比で計算したところ、90%の再資源化が可能だった。

 

楽しくもうかる仕組みでリサイクル推進

多くのマスコミから注目を浴びたが、イベント成功を祝した打ち上げで「学生がいないから成功した。一時的なイベントに過ぎない」という声が上がった。そこで、同年11月に「ごみゼロ平常時実験」として、町中に分別回収の拠点を作った。多くの早大生がキャンパス中からあき缶を拾ってきて、学生がいる時期も回収機による分別回収の有効性が証明された。

1998年には、空き店舗に回収機を設置したリサイクル拠点「エコステーション」がオープン。現在年間約5,000本のあき缶を回収している。
「これまで回収する場所や処分の仕方がわからないことがポイ捨てにつながっていました。わかりやすい拠点があると分別回収の推進につながります」(久保さん)。

このエコステーションの仕組みこそ、「楽しくもうかるリサイクル」の秘訣だ。一般に街で配られる割引券や無料券は捨てられるケースが多いが、自分であき缶などを集めて得たラッキーチケットの来店率は高く、新規顧客の販促ツールとして機能する。割引券でお客は得して、店ももうかる。また、空き店舗が多くなると商店街は暗くなるが、商店街で家賃を払えばエコステーションとして活用できる。

設置から10年経った現在も、あき缶の回収率が下がることはない。小学生の頃にあき缶を集めてゲームを楽しんだ子が、中学生になって総合学習のために環境問題を学びたいと話を聞きにくることもある。現在は空き店舗がなくなったため、エコステーションを小学校の隣に移設し、今後小学生のリサイクル啓発に役立てていく予定だ。

 

わかりやすく伝え、行動する“場”を作ることが大切

「エコサマーフェスティバルは2000年から地球感謝祭と名前を変え、約4万人が来場した2007年は、リユース食器を使うなど学生とともにさらに進化させています。早稲田商店会の取り組みは、環境だけではなく多くの人がアイデアを持ち寄り、防災、地域教育、インターネットを活用した情報ネットワーク、バリアフリーなど、まちづくりに関わるさまざまな活動に広がっています」(久保さん)。

こうした取り組みは全国の商店街に刺激を与えており、多いときはエコステーションが全国で約100カ所できた。そこでできた商店街同士のつながりから、各商店街の取り組みを発表する「全国リサイクル商店街サミット」や大手流通経路にはない各地域の特産品をどの商店街でも取り扱える(株)商店街ネットワークを立ち上げるなど、商店街同士のパートナーシップも広がっている。

「私たちは、難しいことはしていません。人との結びつきを大切にしながら、それぞれができることを実行することで、町が変わっていきました。また、環境について何となく知っているだけでは行動に結びつきません。自分たちでも理解できるようわかりやすく伝え、行動を起こす“場”ををつくることが大切だと思っています」(久保さん)。人と人との結びつきを大切にし、地域をそして国境を越えてネットワークづくりに腐心してきた元気ネット。常に市民・行政・事業者と手を携えて、パートナーシップを持って活動を続けてきた松田さんの志は、10年経った今でも着実に息づいている。

 
 

遊び心で楽しく環境に取り組むことが長続きの秘訣


衆議院議員(早稲田商店会 相談役)安井 潤一郎さん
 
1996年のエコサマーフェスティバルで、たばこの吸殻入りのあき缶がリサイクルルートに乗らないことを初めて知りました。缶から吸殻を出そうとしても、缶の口にフィルター部分が引っかかって出てこない。ピンセットなどでつまんで取る際、吸殻の入った水が手に付くと吐き気をもよおすほどの臭いがします。このとき、これまで環境問題に縁のなかった商店街のオヤジたちは、ごみを資源として活かすには排出時の徹底分別が必要であることを実体験しました。

まちづくりの柱となるのは環境活動です。早稲田という昔ながらの町で、親の代から生まれ育った商店街のコミュニティの中に会社を定年になった方などは入りにくいものですが、社会貢献活動をコミュニケーションの場にすると、会社員時代の知識や人脈が活用でき、コミュニティに参加しやすくなります。空き店舗を利用した分別回収の拠点は、高齢者団体や障害者の就労支援など地域活性化の場ともなります。

しかし、多くの商店街が環境に取り組んでも長続きしないという話を聞きます。商店街にとって、環境に取り組むことは商店街活性化という目的のための手段です。環境自体が目的になると、負担になったり評価への不満を感じて継続しにくくなります。一生懸命頑張るのではなく、遊び心で楽しくやることこそ、商店街の環境活動を長続きさせる上で一番大切だと思いますね。