鉄スクラップ資源循環の 使命を担い困難に立ち向かう事業者たち
未曾有の事態に一丸となって迅速に対処集団回収をスタート
東日本大震災によって特に甚大な被害を受けた東北3県(岩手県・宮城県・福島県)では、阪神・淡路大震災の1.7倍の規模となる約2,490万トンのがれきが発生した。中でも宮城県では、同県で発生する一般廃棄物の23年分に相当する1,500万~1,800万トンに及んだ。
(株)鉄リサイクリング・リサーチの調べによれば、震災による東北3県の鉄スクラップ発生量は101.5万トンで、水没などを除く回収可能な鉄量は96.6万トンにのぼると推計されている。がれき処理は震災復興への第一歩であり、震災で発生した大量の鉄スクラップを資源循環させることは今後の復興資材の供給にもつながっていく。
(社)日本鉄リサイクル工業会で東北支部長を務める高橋文一氏((株)今弘商店 代表取締役社長)は、被災状況について次のように語る。
「津波の被害で操業停止に陥った鉄スクラップ処理業者は、会員70社中10社にのぼりました。当社は本社が内陸部の岩手県花巻市にありますが、3日間停電が続き携帯電話も何度かけても通話できず、地震発生直後は孤立し状況が把握できませんでした。そして、やっとライフラインが復旧すると、仙台港周辺で送電線が断絶するなど太平洋沿岸での被害が甚大であることや、鉄鋼メーカー4社が操業を停止していることなど、東北地方が深刻な事態に陥っていることを知り大変驚きました。
3月中は鉄スクラップの動きはほとんどなく、4月に入り青森県八戸市の東北東京鉄鋼(株)が操業を再開し、ガソリン不足が解消すると、やっと回復の兆しが見え始めました。しかし福島原発の放射能汚染によって、避難区域内に立地する鉄スクラップ処理業者2社は営業停止を余儀なくされています。
こうした難局を乗り越えていくため、当工業会は3月中に当支部と東北3県の各部会に見舞い支援金を支給し迅速に対処しました。さらに日本海側の会員会社が太平洋側の被災会員会社の復旧に必要な重機を手配するなど、協力体制を構築し一丸となって支援を行ってきました」
復興への貢献に向けて最大限の努力が続く
東北地区で鉄スクラップを荷受している鉄鋼メーカーの拠点は4カ所あり、宮城県に立地する3社工場が甚大な被害を受けた。人命や家屋の喪失、生活の激変など予期せぬ突然の出来事が続く中でも、関係者は一刻も早い生産出荷の再開に向けた復旧活動に取り組んでいる。
JFE条鋼(株)仙台製造所は、7月から工場での生産を順次再開し、10月以降すべての製品生産を震災前のレベルに復旧する見通し。(株)伊藤製鐵所 石巻工場も2011年度下期をメドに再開を予定している。鉄鋼メーカーの本格稼働が始まると、電力不足への影響が懸念されるが、従来から経費節減と昼間のピーク時電力節減のため夜間操業を行っており、直接的な影響はない。震災復興と資源循環の使命を担うため、最大限の努力が続けられている。
「地元の鉄鋼メーカーに鉄スクラップを出荷できないのは辛いことだと改めて感じます。北関東地区へ陸上輸送したり、被災しなかった日本海側の秋田港や酒田港などから東北地区域外へ海上輸送するなど、各社出荷先対策を行っています。これまで最寄りの製鉄所で再資源化することによって輸送時のコストやCO2排出量を抑制できましたが、出荷先が遠くなることで輸送時のコストやCO2排出量の増大が懸念されます。
また一時、自動車や電機の組立工場の稼働低下の影響で加工過程から発生する工場発生スクラップが減少しましたが、稼働率が80%程度まで回復すると、災害による老廃スクラップの発生によって、東北地区における鉄スクラップ市場に余剰感が出て需給バランスが崩れる恐れがあります。さらに災害による老廃スクラップは、汚泥や海水処理、放射能問題などリサイクルのための事前処理が課題になります。こうした状況を受け止めながら着実に策を講じて、震災復興に貢献していきたいと考えています」(高橋氏)。
(株)今弘商店 代表取締役社長高橋文一氏
今弘商店は岩手県花巻市における資源回収の協力事業者として、休日も子ども会や町内会など集団回収団体からの資源物を受け入れ、循環型地域社会の形成に貢献。平成13年度リサイクル推進功労者等表彰リサイクル推進協議会会長賞を受賞。現在、高橋氏は花巻市環境マイスターとして、学校や地域の団体が企画する研修会などに出向き、確かな知識と実績に基づいて資源循環活用の重要性を語り、環境学習を支援する活動にも尽力している。