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STEEL CAN AGE

MAIN REPORT

スチール缶は“ガードマン
”安全・安心を守るテクノロジー

お腹が痛くなったり、食中毒になってしまうなど、健康を害することなく、いつでもどこでも安心して、美味しく飲んだり食べたりできる缶飲料や缶詰。当たり前のことだが、最も重要な飲料や食品の安全・安心を守るため、スチール製の缶容器はどのような機能を発揮しているのだろうか。今回のメインレポートでは飲料缶を中心に、スチール缶の“ガードマン”としての活躍を支えるテクノロジーを紹介する。

微生物を増殖させない、混入させないために

飲料や食品の安全・安心を脅かす最大の敵は細菌などの微生物だ。缶飲料を製造する飲料メーカーや缶詰を製造する食品メーカー、スチール缶を製造する製缶メーカーは、各社独自に飲料や食品の品質を損ねる微生物的な研究や技術情報の調査・提供などを実施している。

「私たちの研究所は1928(昭和3)年の開設以来、缶詰やびん詰、レトル卜食品、無菌包装食品などに関する試験・研究・開発を行い、業界共通の技術・研究問題に取り組んでいます。万一問題が発生したときには、第三者機関として原因を科学的に究明・検証し、対策を助言しています。缶飲料についても、製品の品質に関する科学的研究や、新しい製造技術と殺菌技術の開発、微生物の適正殺菌方法の評価などを行っています。缶飲料や食品缶詰は、中味の栄養素などは新鮮な状態で保持されることが前提にありますが、中味を充填・密封した後、中味に混在する微生物を死滅させるのに充分な加熱殺菌を施すことで、長期保存性という優れた特性が成り立っています。だからこそ微生物を増殖させない技術、侵入させない技術が重要になります」(日本缶詰びん詰レトルト食品協会研究所・武田淳所長)

敵を知るテクノロジー 微生物研究

缶飲料や食品缶詰は食品衛生法で製造基準が定められている。殺菌条件については、中味のpH *1 によって区分されている。pH4.6以上で水分活性 *2 0.94を超える状況下で、食中毒の原因となるボツリヌス菌が発育して毒素を生み出す。このため製造時に高温高圧でボツリヌス菌を死滅させる必要があり、121℃、4分相当の殺菌をすることが義務付けられている。実際には、中味によって殺菌の対象菌が変わるため、121℃、4~20分程度の殺菌が行われている。また、加温販売するミルクコーヒー、ココアなどの飲料では、耐熱性の強い細菌が発育できる環境となるため、125~130℃、20分以上の殺菌が施されている。

「細菌による問題が発生した際、原因菌が外部から侵入したのか、それとも耐熱性菌などが生き残って内部で発生したものなのか、まず経路を明らかにします。外部からの侵入の場合は食品工学研究室で容器の密封評価を行います。一方、内部発生の場合は微生物研究室で細菌検査を行い、原因菌の分離、特定を行います。原因菌の特定は従来1カ月かかっていましたが、DNA解析の発達によって最近は1週間で判明できるようになりました」(同研究所食品微生物学研究室・大久保良子主任)

容リ法の完全施行に並行して、一般廃棄物の最終処分量が年々減少する(図1)とともに、最終処分場の延命化も図られてきている(図2)。一般廃棄物の排出量は、2000年度の5,483万トンをピークに減少しており、2011年度においては4,539万トンとなり約17%減少した。このうち、容器包装廃棄物が占める割合は容積比で約60%から約54%と減少している(図3)。1人1日当たりの一般廃棄物排出量も直近975gで、1995年1,138gから14%、ピーク時の2000年1,185gから約18%減少している。消費者・市町村・事業者などによる3R(リサイクル・リデュース・リユース)推進に係る連携協力の取り組みは拡大し、事業者による3R推進のための自主的取り組みや、多様な回収の仕組みである集団回収・店頭回収なども進展している。

※1 pH:水素イオン指数。酸性、アルカリ性の度合いを表す単位。
※2 水分活性:微生物が繁殖に利用することができる水の割合。

微生物を侵入させないテクノロジー 二重巻締

ここからは缶飲料を製造する飲料メーカーがどのように中味をスチール缶に詰めているのか、製造工程をたどりながら、微生物を侵入させない、増殖させない技術を紹介しよう。

缶飲料工場には厳しい品質検査を受けて合格したスチール缶が納品される。スチール缶が製造ラインに投入されると、缶胴部は製品を充填する前に水で洗浄し細菌や異物を除去する。缶蓋は紫外線殺菌が行われている。そして充填装置で中味がスチール缶に詰められていく。1分間に1,500缶もの高速充填を行っている工場もある。充填後は二重巻締装置で自動的に蓋を取り付け、中味を密封している。製品の種類によって異なるが、1分間に2,000缶の巻き締めが可能で、缶の中の空気を抜いて真空状態で巻き締めされている。

この二重巻締が、微生物を侵入させないキーテクノロジーなのだ。二重巻締とは、缶蓋のカール部分(折り曲げた周縁部分)を缶胴のフランジ部分(周縁を外側に折り曲げた部分)に被せ、ロールで渦巻状に圧着して、缶胴と缶蓋を接合する方法だ。缶蓋の部分と缶胴の部分がそれぞれ二重になるところから、二重巻締と名付けられた。1897年に発明され、缶容器や缶詰の生産性を飛躍的に向上させた。現在もその技術が息づいている。

「細菌による問題が発生し、容器の密封性に原因があると疑われる場合、まず缶内に空気を送入して、二重巻締部分や缶胴のサイドシーム部分などに密封性の欠陥があるかどうかを耐圧試験で調べます。さらに巻き締め検査では、缶を切って巻き締め部の厚みや長さ、重なり具合を測定し、規格通りであるか否かを確認します。通常は100分の1ミリの精度で、しっかり密封されており、飲料メーカーの製造工場でも巻き締め検査が行われています」(同研究所食品工学研究室・戸塚英夫室長)

微生物を増殖させないテクノロジー① 高温殺菌

密封したスチール缶は、殺菌機によって加熱殺菌される。これは冒頭で紹介したとおり微生物を加熱によって死滅させて腐敗を防ぎ、長く保存できるようにするためだ。缶をかごに入れ、かごごとレトルト釜という装置で高温殺菌している。殺菌工程は自動制御により殺菌温度と時間を厳しく管理している。殺菌後は品質の変化を防ぎ、より長く保存するため、ただちに水で冷却されている。

この高温殺菌が、微生物を増殖させないキーテクノロジーだ。コーヒー、茶系飲料、スープの容器にスチール缶が多く使われているのは、高温下で殺菌するとき、缶の内圧が外圧より高くなるため、容器にある一定の強度が求められるからだ。強くて丈夫なスチール缶ならではの特長を利用して、缶飲料の品質と安全性が確保されている。

研究所や飲料・製缶メーカーでは、加熱が不十分だった場合に変敗にかかわる微生物の熱抵抗や、缶内部へ流入する熱の伝達速度などを測定して、殺菌効果を検証している。

また殺菌方法として、高温短時間殺菌した内容物を殺菌済み容器に無菌環境下で充填・密封する無菌充填が使われることがある。これによって、より一層風味や色調など美味しさを保ち続けた安心・安全な缶飲料を提供することができるようになった。

微生物を増殖させないテクノロジー② 打検

飲料メーカーの製造工場では、高温殺菌後、決められた量の中味が入っていることを1本ずつ検査している。X線を使って缶の中を透かして液面の高さを測定し、内容量が正しく入っていることを確認する。さらに正しく密封できていることを1本ずつ検査するため、打検が行われている。

打検は高温殺菌とともに、微生物を増殖させないキーテクノロジーだ。缶底に音を当てて、振動数を解析して缶の真空度を判別し、密封性を確認している。昔は1本ずつ人が缶底を叩いて、その反響音を聞き分けていたが、現在は打検装置で自動化されている。検査で異常があった缶はラインから取り除かれている。スチール缶は打検という実績のある内容物の品質保証機能に適した容器なのだ。

打検後、缶底に賞味期限が印字され、缶飲料は梱包される。出荷前には殺菌工程を含めすべての製造過程で衛生管理が正しく行われていたかを確認する微生物検査が行われる。さらに味や香りが正常であることを確認する官能検査、味の成分が規格通りであることを確認する理化学検査、商品の外観に汚れやキズ、へこみなどがないことを確認する外観検査も行われる。こうした徹底した品質管理のもと、缶飲料は出荷されている。

進化を続けるテクノロジー スチール缶の強み

二重巻締による優れた密封、高温殺菌を可能にする強度、打検による品質保証機能は、スチール製の缶容器が持っている大きな特長で、缶飲料だけでなく缶詰の製造においても活かされている。スチール缶はこのように飲料や食品の安全・安心を守る防御性能に優れた容器だ。出荷後も品質を低下させる光や酸素も完全に遮断し、バリア性が高い。また優れた密封性によって、いたずらによる異物や毒物の混入を防ぐことができる。熱伝導性が高く、自動販売機で効率的に冷やしたり温めたりできるため、環境にもやさしい。さらに強い衝撃にも耐え、しっかり中味を守ることができる。スチール缶は飲料や食品の安全性と信頼性を確保する重要な役割を担っているのだ。

新しい殺菌技術や充填設備、品質保証システム、関連する装置の研究開発が進んでいる。より安全・安心で、風味豊かなまま美味しい飲料や食品を届けるため、スチール缶もまた進化し続けていく。