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STEEL CAN AGE

HAND IN HAND

ふるさとの美しく豊かな海を取り戻す

三陸ボランティアダイバーズ

東日本大震災からもうすぐ4年。NPO法人「三陸ボランティアダイバーズ」では震災により海に流された瓦礫の回収を続けてきた。漁師の皆さんと二人三脚で進めダイバーと漁師の新たな関係を構築し、取り戻しつつある美しい海と帰ってきた生き物たちの姿を伝える、三陸ボランティアダイバーズ代表の佐藤寛志さんにお話を伺った。

 

海に潜れるダイバーだからできること

NPO法人「三陸ボランティアダイバーズ」は、東日本大震災で被災した三陸沿岸部の復興を目的に、北は岩手県宮古市から南は宮城県石巻市まで、50カ所以上の海の瓦礫撤去を行うとともに、復興しつつある海の現状を社会に発信している。岩手県出身のダイビングインストラクターで代表を務める佐藤寛志さんは、震災時のことを振り返る。

「その日、私はタイでダイビングスポットを回るクルーズ船の上にいました。ラジオ、テレビから流れてくる映像に、これは大変なことが起きたと、すぐに家族と連絡をとったところ、交通機関も麻痺しているので安全なそこにいればいいと言われました。判断を迷っていたときに背中を押してくれたのがタイのダイバー仲間たちでした」

タイでは2004年のスマトラ島沖地震で甚大な被害を受け復興してきた経験があり、すぐに必要な物資を届けるために、佐藤さんの帰国を支援してくれた。

「帰国後すぐに、花巻の実家を拠点に全国各地、そしてタイをはじめ世界中のダイバー仲間から支援物資を送ってもらい、被災地に届けました。私は震災以前から大船渡市綾里(りょうり)漁港に注ぎ込む綾里川で鮭の遡上を観察するサーモンスイムを行ってきたのですが、その川も海も瓦礫だらけで、自分も何かできないかと思っていたところ、そのサーモンスイムでお世話になってきた大船渡市綾里漁港の漁師である亘理(わたり)孝一さんから『この瓦礫をなんとかしたい』と相談されました。そこで海に潜れるダイバーだからこそできる海中の瓦礫撤去を4月から開始。震災から1カ月が経過し、警察などによる行方不明者の捜索にも邪魔にならないと判断しました」

瓦礫だらけの海では、ダイバー自身の安全確保も困難を極めた。ヘドロが堆積するなか、ロープを持って潜ったダイバー1人に対し、岸では数人がロープを持って瓦礫を引き上げる。大きな瓦礫は漁船のクレーンを使って引き上げたり、ロープでだめならネットに集めて回収するなど、試行錯誤しながらの作業だった。固く締め上げるロープの結び方は漁師の皆さんに教わった。

「この作業は、漁師さんとの二人三脚でないとできません。やはり地元の海を一番知っているのは彼らですから。特に重いものを引き上げるには船や重機を出してもらわないとできません」

これまで養殖が盛んでダイバーの少ない三陸では、漁師から「ダイバー=密漁者」という目で見られることが多かった。しかし、共同作業のなかで徐々に信頼関係が築かれていった。里海として皆で一緒にいい海を育てていこうと、磯焼け※を引き起こす巻貝やウニの仲間を駆除したり、別の場所に移植する活動も行っている。

※磯焼け:コンブやワカメなどの海草類が失われ、海が不毛の状態になること。

 

多くの人に知ってもらいたい海の魅力

ボランティアに参加する際、海に潜るのはプロ資格のあるダイバーだけだが、岸からの引き上げ作業などは資格は問わない。これまで延べ3,000人、中高生から50代まで幅広い年齢層が参加。地元・近隣のダイバーはもちろん、活動を知った全国各地から応援する人が集まった。

ある程度海がきれいになってからは養殖再開のお手伝いもするようになり、ボランティアに参加した方がその後どうなったか見たいと私のダイビングショップを訪ねてくることもあります。海中から見上げると緑のカーテンのようでとても美しいんですよ 。 鮭も戻ってきて、綾里川でのサーモンスイムも再開しています。漁師の方にいろいろ教えてもらう一方で、ダイバーは漁師の方が普段は気に留めていない小さい魚を教えるなど、双方で知識を補完し合い、多くの人に足を運んでいただけるよう、三陸の海の魅力をPRしています」

大船渡市立博物館、三陸鉄道のホームや駅舎など地元のほか、日本各地で写真展や講演を行ってきた。2月にはタイ・バンコクで支援に対する恩返しの意味も込めて日本の情報発信イベント「JAPAN EXPO」に出展し、写真や映像でこれまでの活動と現在の三陸の復興状況を伝えた。

「震災の記憶から、海は津波のイメージで怖い存在になったかもしれない地元の人に、きれいな海の生き物が戻ってきていることを紹介し、震災を体験していない人には、現実に起こった津波の被害とそこから復興している様子を知ってもらいたいので、相手によって見せる内容も話す内容も変えています。今後も復活していく海をこの目で見続け、その美しさと豊かさを発信していきたいですね」