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MY ANGLE

社会問題とともに変遷する環境汚染の課題を的確に捉える

多摩大学グローバルスタディーズ学部教授 橋詰 博樹氏

皆さんは、日本の環境は良くなっていると思いますか? 悪くなっていると思いますか? 学生にこの質問をしたところ、大多数が悪くなっていると答えたのですが、大気汚染や水質汚濁などの数値はこの50年で明らかに良くなっています。それは、水でも大気でもそうですが、特に廃棄物分野では失敗を重ねながらも、例えばリサイクル・資源活用の体制を整備し、各自治体が地域の特性に合わせて粘り強くきめ細かく対応してきた歴史があるからです。

ごみ問題は、公衆衛生の向上と生活環境の改善から始まり、公害問題、環境保全、リサイクル、そしていまの資源の有効活用につながっています。その都度法改正を繰り返したわけです。だから最近は目立つところでのごみの散乱、缶のポイ捨てなどはほとんど見られなくなってきたと思います。あるとき学生にデポジット制度※をテーマに議論してもらいました。賛成派が多くなると予想したのですが、学生からは「回収システムに費用がかかる」「戻ってきた容器を置く場所の確保も大変」と反対の意見が多くあがりました。ポイ捨てされやすい社会構造の時期はデポジット制度が有効な手段の一つと考えられてきましたが、散乱ごみをあまり見かけなくなった若い世代にとっては必要性を感じず、むしろデメリットのほうが大きいと判断されたようです。

一方で、現在抱える環境問題は、かつての大気汚染や水質汚濁のように健康被害や環境汚染が目に見えて現れるものではなく、地球温暖化や生物多様性の減少など、私たちの生活や生態系の長期的な維持に影響を与えるものです。日本にいると見えない、遠いところで起こっていることは意識しないと気が付かない。私たちの選択一つ一つが持続可能な社会につながっていると自覚したいですね。

理想は、消費者が意識しなくても結果的に行動したことがエコになることだと思います。製造者側がごみにならない製品開発ができるようにすべきです。そういう意味で、リサイクルシステムが確立し、消費者がごみ箱に入れれば再び鉄に生まれ変わるスチール缶は、その理想に近づいているかもしれません。

ごみ問題はその時代の社会問題と密接につながっているので、今後は高齢化社会における対応、福祉の目線が目的の一部となってくると思います。かつての政策は高齢者が家族と住んでいることが前提でしたが、独居老人が増え、体力や認知力が衰える中、資源有効活用のシステムをどのように機能させるのか、今後、中長期的な視点から検証していく必要があると思います。(談)

 
 

profile
はしづめ・ひろき
1979年北海道大学大学院工学研究科衛生工学専攻修士、厚生省入省。厚生省国際協力専門官、(財)廃棄物研究財団技監、水資源開発公団水環境課長、世界保健機関(WHO)本部衛生工学専門官、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)事務局長、環境省廃棄物対策課長などを歴任。2009年9月より現職。