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STEEL CAN AGE

MAIN REPORT

環境負荷の見える化
スチール缶でエコアクション

環境適性に優れたスチール缶に包装された飲み物や食品などを選ぶことが、環境問題に対するエコアクションとなり得る。
そのことを多くの消費者の方々に理解していただくための1つの手段として、日本製鉄(株)はスチール缶の素材であるブリキ製品でエコリーフ環境ラベルの認証を取得した。環境負荷の見える化の取り組みを紹介する。

鉄のライフサイクル全体で、CO2排出削減量などを開示

日本製鉄は2020年10月、スチール缶に用いられている素材のブリキ、ティンフリースチール、ラミネート鋼板の3製品で、国際規格ISOに準拠した(一社)サステナブル経営推進機構によるエコリーフ環境ラベルの認証を取得した。飲料缶、缶詰、菓子缶から潤滑油や塗料などの保管・運搬に用いられるペール缶まで、さまざまな容器に用いられる極薄系のスチール素材では、国内で初めての認証取得となった。エコリーフとはLCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いて、資源採取、製造から廃棄・リサイクルまでの製品のライフサイクル全体を考えた環境情報を定量的に開示するもので、使用する製品の環境負荷を客観的に評価することができる。

「2018年の国際規格化(ISO規格化)によって、スチール素材(鉄鋼製品)のライフサイクルのうち、つくる段階のCO2排出量と使い終わったあとのリサイクル段階のCO2排出削減効果などの環境負荷の値を定量的に示せるようになり、今回の当社のエコリーフ認証の取得に至りました。これにより、何度でも何にでも生まれ変わることのできる鉄鋼製品の高いリサイクル効果を反映したライフサイクル全体での環境負荷値を見える化することができるようになりました。素材として、使い終わったあとのリサイクル効果を含めて環境への貢献度を算出している点が大きな特長です。スチール容器は、ライフサイクル全体でのCO2排出量が低いこと、そして私たちが鉄づくりで社会に与える影響について責任を持ち、社会の持続可能な発展に貢献していくことについて、多くの皆さんに知っていただきたいという思いがエコリーフの認証取得に込められています」(日本製鉄・礒原豊司雄部長代理)

何度でも何にでも生まれ変わる

鉄はサステナビリティに優れた素材

スチール缶リサイクル率 90%以上を9年連続で達成

2019年度のスチール缶リサイクル率は93.3%で、16年度から始まり20年度を目標年度とする自主行動計画2020(第3次自主行動計画)のリサイクルの数値目標90%以上維持を達成している(図1)。

スチール缶のリサイクル率が高い理由は、磁力選別できるため回収と選別が容易であること、スチール缶スクラップを再利用できる製鉄所や電炉工場、ペレット工場などが全国73カ所に立地しており近距離に再生のためのインフラが整備されていること、そして地域住民の協力による分別回収の徹底、自治体や事業系の分別収集システムの完備、資源化センターやスクラップ加工業者の選別・加工によって、スチール缶スクラップは鉄づくりの原料として使われる資源循環システムが確立していることがあげられる。

元の素材に戻ることはない熱回収とカスケード利用

いまやリサイクルは当たり前の社会になった。しかし、廃棄物による海洋汚染、資源化処理能力の不足、廃棄物輸出の制限といった問題が深刻化しており、リサイクルの質への関心が高まっている。一口にリサイクルと言っても、実は素材別にさまざまな運命をたどっているからだ。素材の再利用には大きく分けて、熱回収、カスケード利用、クローズドループリサイクルの3つの種類がある(図2)。

熱回収は廃棄物を焼却して容積を減らすとともに、発生する熱を回収して電力や温水に利用するもので、燃料の代替になるものの、燃え残った燃焼灰などの廃棄物処分が必要となる。日本では、可燃物は主にこの方法で処理されている。

カスケード利用は素材として再利用するリサイクルではあるものの、性質の劣化や変化を伴うため、元の品位に戻ることはなく、最終的には埋め立てなどの形で廃棄処分される有限のリサイクルである。紙やプラスチックは主に、カスケード利用で処理されている。

無限に循環利用できる クローズドループリサイクル

クローズドループリサイクルは再利用先を選ばず何度でも同じ素材に無限に循環利用される。熱回収やカスケード利用がその再利用方法や埋め立て処分を通じて素材の寿命(廃棄)に向けて直線的であるのに対して、クローズドループリサイクルは製品の寿命から素材の寿命(廃棄)ではなく、素材製造に再び戻って閉じたループを形成するため、新たに投入される天然資源消費量の削減、CO2などの環境負荷物質排出量の低減、廃棄物の削減を図ることができ、熱回収やカスケード利用よりもサステナビリティの点で優れている。鉄はクローズドループリサイクルされている素材の代表であり、スチール缶は自動車やビル、橋、鉄道など、何度でも何にでもさまざまな鉄鋼製品に生まれ変わる質の高いリサイクルができる。日本製鉄はスチール缶に用いられている3鋼板製品でエコリーフ認証を取得し、これを契機に、こうした環境情報を積極的に発信していきたいという。

「例えばコーヒーもいろいろな容器包装が使われていますが、コーヒーを飲むときに『スチール缶で包装された商品を選択することは環境にやさしいことだ』と認識してもらうとともに、それを消費行動に移すエコアクションへとつながることを願っています。そのためにも環境というキーワードで鉄の素晴らしさをアピールしていきたいと考えています」(日本製鉄・平田彰彦室長)

「素材メーカーである当社だけにとどまることなく、製缶メーカーや飲料メーカーなどと共に、商品へのエコリーフ環境ラベル表示の実現に向けた取り組みを当社は始めています。エコリーフ環境ラベルとともにQRコードを表示し、スチール缶素材の環境情報にアクセスできる仕組みづくりなども模索しているところです。まず実績をつくり、その反響を踏まえながら、より大きな動きに広げていきたいと考えています。

エコリーフ環境ラベルを活用し、これからも持続可能な社会の構築に貢献していきます」(日本製鉄・渡辺利彰主幹)

エコリーフ表示に向けて動き出す

日本製鉄では製缶メーカーと連携し、スチール容器へのエコリーフ表示の実現に向けて動き出している。製品の環境情報を見える化することにより、事業者と消費者との間で環境負荷削減努力のための相互理解とコミュニケーションの促進を図っていく。

ジャパンペールは高石・尼崎・千葉の3カ所に工場を持ち、日本一のペール缶の生産数を誇っています。ペール缶は主に20リットルの鋼製容器のことで、危険物などの保管・運搬に使われています。身近な例では、コンビニエンスストアの店頭でつくられている揚げ物の食用油の廃油交換容器に使われています。またガソリンスタンドの休憩室や整備室に並んでいるエンジンオイルの容器もペール缶です。

ペール缶に印刷された商品デザインは、すべてお客様がブランドイメージに合わせて独自に指定されています。そのデザインにエコリーフマークを新たに入れるためには、お客様のご賛同を得なければなりません。現在、はじめの一歩として、日本製鉄のグループ会社である日鉄ケミカル&マテリアル(株)の化学品などに使われているペール缶でエコリーフを表示しようと模索しています。ペール缶のトップメーカーとして環境指向製品の普及を通じて、これからも循環型経済社会の形成に貢献していきます。

水戸部製缶は1910(明治43)年の創業以来、約1世紀もの間、日々の生活に密着したさまざまな包装容器を提供してきました。海苔やせんべい、コーヒーやココア、ビスケット・クッキー、防災用食品、缶詰など、現在600種類を製造しています。

一般缶へのエコリーフ表示は、素晴らしいチャレンジだと思っています。消費者の皆さんの環境意識は高くなっても、それがまだ消費行動につながっていません。すでにリサイクルマークがあるものの、意味を理解している消費者は意外と少ない。エコリーフが一般缶に表示されて、QRコードを読み取れば環境情報を知ることができるようになると、鉄は環境に優れた素材だという理解が深まり、消費行動につながるものと期待を寄せています。

一般缶の代表的な用途に贈答用があります。贈答品には贈る人の心が詰まっています。その中身だけでなく、包装容器も環境にやさしい素材であれば、受け取る人にとってもうれしいはずです。エコリーフがまさに太鼓判となるよう、表示の普及に努めていきます。