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音楽イベントから芽生える環境への関心

「来場者参加型」の環境対策活動を推進する A SEED JAPANごみゼロナビゲーション事業部

近年、全国各地で頻繁に開催されるようになった野外音楽フェスティバル。さまざまなアーティストを目当てに訪れる来場者は、大きなイベントでは10万人規模にまで達し、開催後の膨大なごみの対応は大きな課題となっている。今回は、音楽フェスティバルの会場で、通常の清掃活動ではなく、来場者一人ひとりにごみの減量化と排出責任を呼びかけ、参加者自身が環境対策活動に率先して取り組む意識を広めようとしている国際青年環境NGO「ASEED JAPANごみゼロナビゲーション事業部」を紹介する。

 

参加者全員でフェスティバルを創りあげる

新潟県湯沢町の苗場スキー場で毎年夏に開催される「フジロックフェスティバル」(以下、フジロック)。その会場のいたるところに設置されているごみ箱の前に立ち、来場者にごみ袋の配布やごみの分別を呼びかけているのが「ASEED JAPANごみゼロナビゲーション事業部」(以下、ごみゼロチーム)の若い学生ボランティアたちだ。
来場者に直接呼びかけ、指導することで、ごみへの関心や排出することの責任を認識してもらい、環境問題をより身近なテーマとして考えてもらう機会を提供する狙いがある。また配布されるごみ袋には、リサイクルの重要性などを訴えるメッセージも印字されており、一人ひとりが自発的に資源物回収に取り組んでほしいという願いが込められている。来場者とボランティアという垣根を取り払い、会場にいるすべての人が「フェスティバルを創りあげる」という思いを共有することができる“環境対策活動”だ。

 

多くのボランティアや賛同企業がごみゼロチームを支える

ごみゼロチームは、同事業部の現在の総括責任者である羽仁カンタ氏が、音楽イベントでのごみの散乱を解決すべく主催者に話を持ちかけ環境対策が始まり、当初は「ごみ拾い」活動を行っていたが、それでは根本的解決にならないということに気付き、ごみの分別を呼びかける「来場者参加型」の活動へとシフトしていった。

同事業部の伊藤ちひろさんは、「『環境そのものを見据える』という理念のもと、この場の体験を日常に活かしてもらおうという期待を込めて、ごみ分別の呼びかけをはじめとする根本的な解決策を提案しました。それを主催者側が快諾し、今後このイベントでの環境対策活動を一任されることになりました」と語る。
ごみゼロチームの活動に賛同しているのはボランティア会員ばかりではなく、協賛企業や環境への関心が高い企業もその活動に期待を寄せている。

フジロックで配布されるごみ袋は、協賛企業のTOWER RECORDS(タワーレコード(株))が制作している。また、活動内容に共感し、会場で出るごみのリサイクルを無償で引き受けてくれる業者も名乗りを上げている。「さまざまなところで企業とのコラボレーションが実現しています。私たちに協力してくださる企業は、一方的な寄付ではなく、一緒に何かを創りあげていこうという思いで賛同されるケースが多いですね」(伊藤さん)。

 

地域と共存し、信頼関係を深めるために

このような大規模なフェスティバルを開催するにあたり、地元の人々の反応はどのようなものだったのか。これまでフジロック以外にも、多数の音楽イベントを訪れている東京都在住の早川由美子さんは語る。「フジロックのため現地で宿泊先を探していたとき、多くの旅館やホテルから断られました。満室でダメだったのではなく、マナーの悪い宿泊客があまりにも多いため、フジロックの期間中だけ休館するホテルが多数あることを知ったときはショックでした」。当初は苗場での開催に、地元住民から多くの反対意見があった。しかし、ごみゼロチームが参画してから1~2年で、ごみ袋の配布や分別の呼びかけによりごみの散乱が減少し、来場者一人ひとりの環境への意識が高まるに伴ってフジロックへの風当たりは徐々に収まっていった。

会場内では来場者に向けたリサイクル工程の実演や、ほかのNPO団体による来場者への環境問題についてのレクチャーなども行われている。さらには特産品の販売や地元で採れる食材を使ったレストランなど、地元の人たちが出店するブースも設けられ、地域との共存と信頼関係が確実に醸成されつつある。

 

来場者に芽生える環境への意識

ごみゼロチームに対して、来場者はどのように受けとめているのだろうか。早川さんは続ける。「フジロックの会場は、10ステージを収容するくらいの広さがあり、そこで1日中演奏が行われているのですから、実際に相当な人数のボランティアがいます。それだけ多くの若い人たちが環境問題に関心を持っている表れだと思います。初めて会場に入ったときも、ごみの分別についてあまりにも事細かに書いてあったので、来場者はイライラして怒ってしまうのではないかと思ったくらいです。それでもみんな一様にボランティアの指示に従って分別していて、意外に若い人たちにも受け入れられているんだと実感しました。来場者一人ひとりが、『世界一クリーンなフェスティバル』と言われているフジロックに参加しているという意識が芽生えつつあるのだと思います」。

 

フェスティバルの感動を、日常へ

最後に、伊藤さんは今後について、「音楽フェスティバルという非日常空間で経験したことを、その場で得た『楽しさ』と一緒に日常のライフスタイルに反映できるよう、みんなに呼びかけていくことが私たちの使命でもあります。そのために、私たちボランティアが活動内容をカッコ良く、楽しく見せ、『参加型社会』の仕組みやきっかけを提供してあげられたらと思っています」と抱負を語る。

環境を守ることの「具体例」をフェスティバルの会場で実践しているA SEED JAPANごみゼロナビゲーション事業部。大勢の人が共に感動する非日常の場で、私たちに必要な「アクション」を起こすことの大切さを教えてくれている。