未来への知的想像力で、環境保全の長期的なストーリーを描く
(一財)持続性推進機構 理事長 東京大学名誉教授 安井 至さん
“世間からの評判”ではなく、“社会にあるべき正義”を
(一財)持続性推進機構が推進する「エコアクション21」※は、社員10~20人の中小企業が取り組みやすい環境マネジメントシステムとして、2004年にスタートしました。「環境経営システム」「環境への取り組み」「環境コミュニケーション」を柱とするガイドラインに則り、すでに全国約7,900社の中小企業が認証を取得しています。近年ではISO「14001」の改正を機に、環境対策と経営を融合させ環境経営の有効性を高める内容にガイドラインを改訂しました(2017年度版)。
企業が発信する最近の統合報告書を見ると、6つの資本※のうち、長期的視野から「社会・関係資本(社会からの信頼度など)」「人的資本(従業員のモチベーション向上など)」「自然資本(環境への取り組み)」の3つの価値創造を目指す企業が増えています。こうした流れのなかで、企業の環境対策が「世間からの評判」ではなく、「社会にあるべき正義」を意識した真の活動としてさらに成熟してほしいと思っています。
将来を見据えた鉄鋼業のイノベーションに期待
一方、消費者サイドを見ると、最近はごみ問題や省エネなどの身近な問題がひと段落して、新たに個人でできることが減り、消費者の意識が環境問題から遠ざかっているように思えます。従来からの生活でのエネルギー消費など身近かつ短期的なリスクだけでなく、地球温暖化問題を背景にした、長期的・世界的なリスク低減について真剣に考えるべき大転換時代を迎えています。現状を良くするだけではなく、じっくり未来へのストーリーを見極める知的想像力が、社会を構成する一人ひとりに求められています。
2015年のパリ協定(COP21)では、今世紀中の世界の気温上昇を2℃未満に抑制する気候変動目標を達成する一つの方法として、「CO2回収・貯蔵技術(CCS)」の役割が注目されました。この技術は鉄鋼生産など工業プロセスからのCO2排出の大幅削減を可能にする数少ない手法ですが、一方で2050年には世界人口が約98億人、新興国の経済成長とあわせて社会基盤を担う鉄の1人当たりの消費量も平均7トン(現在4トン)に増えると予測されています。今後、鉄鋼業に対しては、社会ストック(スクラップ)の最大活用と、水素の供給源となるCOG(コークス炉ガス)による環境調和型の新たな製鉄技術開発など、長期的視野に立ったイノベーションを期待しています。(談)
※エコアクション21:環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム(EMS)。PDCAサイクルを回し継続的に改善する手法を基礎として、組織や事業者などが環境への取り組みを自主的に行うための方法を定めている。
※6つの資本:財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本。
やすい・いたる
1945年東京生まれ。東京大学生産技術研究所教授。専門は、セラミックス分野では非晶質構造論・材料設計、環境分野ではLCA・環境総合評価法。東京大学国際・産学共同研究センター長(1996~99年)、国連大学副学長(2003~07年)、同名誉副学長(2008年~)、科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー(2008~09年)。2009年4月から製品評価技術基盤機構(NITE)理事長を務め、2015年4月より現職。東京大学名誉教授(2005年~)。
著書は『市民のための環境ガイド』(丸善)、『21世紀の環境予測と対策』(丸善)、『環境問題学』(ナツメ社)ほか多数。