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STEEL CAN AGE

MAIN REPORT

ヨーロッパ
それぞれの国情に合った手法でリサイクルに挑む

第7回欧州リサイクル状況視察報告より

ドイツをはじめ、環境先進国と呼ばれる国が数多くあるヨーロッパでは、90年代初頭から容器包装リサイクルの気運が高まってきた。94年にはEU(欧州連合)指令において、総リサイクル(マテリアルリサイクル)率25~45%という各国共通の目標を掲げ、さらに現在では、2006年までに55~70%とする、容器包装の新たな厳しい目標が提案されている。15の加盟国ではいまこうした情勢をふまえて、それぞれのローカルコンディションに合わせた独自のリサイクルシステムづくりを進めている。
スチール缶リサイクル協会では、去る4月23日から5月4日まで、こうしたヨーロッパのリサイクルにおける新たな動向を視察するために調査団を派遣した。今回のメインレポートでは、調査団の報告書の中からいくつかのポイントに絞りご紹介しよう。

EU指令の新たな目標値に各国独自の理念で取り組む

EUの2000年のスチール缶リサイクル量は167万トンに達した。前年比15%の増加、率に換算すると2%アップの49%となった。

EU内で最も進んでいるのはルクセンブルクの93%で、ドイツとオーストリアが80%に近づき、ベルギーとオランダは77%、スウェーデンとデンマークはほぼ70%に到達しており、2006年までにEU全体で50%という金属容器に課せられる新たな指令案が現実的なものになってきている。

収集方法は、各地域の状況に合わせて、数種の品種を混合で収集するカーブサイド(分別収集)方式や、金属缶を持ち込む拠点方式、家庭ごみとして混合して集める方式を組み合わせて行われているが、最終的には焼却炉からの回収が約半分を占めている。

今回の訪問国は、ドイツ、ベルギー、フランス、イギリスの4カ国。各国とも循環型社会形成(Sustainable Development)を目指した真剣な取り組みがなされ、容器包装については、EU指令に基づく国毎の法整備が進み、リサイクルシステムづくりが進んでいる。しかし、各国それぞれの経済環境や理念があり、決して一律の政策がとられているわけではない。

■容器包装のEU指令

’94/62/EU 容器包装指令  ’06年までの新指令(案)
総リカバー率 50~65% 60~70%
総リサイクル率 25~45% 55~70%
個別
ガラス 15% 60%
15% 55%
金属 15% 50%
プラスチック 15% 20%

※総リカバー率:マテリアルリサイクル、熱回収、ケミカルリサイクルを含めた指標
※EU15ヵ国:ドイツ・フランス・英国・ベルギー・オランダ・ルクセンブルグ・オーストリア・アイルランド・イタリア・スペイン・ポルトガル・ギリシャ・フィンランド・スウェーデン・デンマーク

手法は大きく分けて2種類ある。

一つは「グリーンドット(Green Dot)システム」と呼ばれる中身メーカーが事業者責任を負い賦課金を支払う手法で、もう一つは、素材・製缶・飲料・流通といった関連業界が責任を分担し、再生製品を製造する業界から容器包装回収手形を購入する「PRN(Packaging Recycling Note)システム」という手法だ。

現在PRNを採用するのはイギリスだけで、それ以外のEU諸国はグリーンドットを採用している。ただしグリーンドットについても、その運用手法は各国で異なり、特に収集業務への自治体関与の有無や、リサイクル対象物の選択によりコスト差が大きく出ている。

ここでは、各国の事例の中でも、リサイクル先進国と言われるドイツと、独自のグリーンドットシステムを運用するベルギー、唯一PRNを採用しているイギリスの事例を中心に触れることにしよう。

リサイクル先進国として新たな課題も抱えるードイツ

ドイツは1991年の「包装廃棄物政令」の施行以降、環境政策のお手本としてヨーロッパ諸国はもとより日本にも大きな影響を与えてきた。

本誌でも第3号(2000年3月発行)でその一端をご紹介したが、特に、包装商品の事業者責任をグリーンドット(賦課金)によってDSD(デュアル・システム・ドイッチュランド)社に肩代わりさせるシステムはさまざまな媒体で紹介されてきた。

スチール缶のリサイクルについては、日本と共に世界最高の水準にあり、廃棄物処理に関する2006年までのEU指令の新目標値もすでにクリアしている。

リサイクルの基本は、事業者の引き取り(Take Back)の原則に基づいており、事業者は自らリサイクルするか、DSD社に賦課金を支払いリサイクルを委託するかを選択するが、現実的にはDSD社に委託するシステムができあがっている。

同社の基金は中身メーカーと輸入業者が負担しているものの、製品価格に転嫁されているので、最終的には消費者が負担していることになる。

一方、フランスも中身メーカーが質量・容量による賦課金をEE(エコアンバラージュ)社に納めることで、責任を同社に委譲できるシステムを運用しているが、その資金が自治体への援助に当てられることがDSDシステムとの大きな違いだ。

ドイツのグリーンドットフィーに当たるグリューネプンクトの価格は、重量・容積・面積を勘案して決められる。重量単位のフィーは、設備費と作業費を含めたリサイクルコストから決められ、例えば、スチールのフィーはアルミの約3分の1であり、これは、分別に使われる磁石選別機と渦電流選別機の価格差の違いと、選別精度の差から生じている。

今回の調査では、ドイツのリサイクルシステムの定着を実感した反面、新たな課題を垣間見ることになった。ドイツではリサイクルに関しても理念と理論を重んじる傾向が強く、例えば、DSD社のリサイクル実績が高いにもかかわらず、デポジットという新たな施策を導入するといった、ある意味で「完璧主義」とも言える思考である。

デポジット制については、もともと1991年の容器包装政令で事業者があき容器の「Take Back」の原則によりデポジットを実施する考えがあったが、業界がそれを避けるためにDSD方式を提案して認可された経緯がある。ただし、1991年当時のリターナブル容器割合を下回る品種はデポジットを導入することが定められており、すでにいくつかの品種がデポジットの対象となっている。

現在、デポジットについては、その導入について賛否が分かれドイツ国内の議論を呼んでおり、日本としては、一つのケーススタディとして今後の動きを注意深く見守る必要があるだろう。

INTERPACK(国際包装容器展)

INTERPACKは、3年に1回、デュッセルドルフで開催される見本市。

16回目を迎える同展示会は、参加企業2,557社、見学者数は103カ国17万4,000人(ヨーロッパ以外からの見学者は4割)という世界一の容器包装展示会である。具体的な商談を結ぶ機会でもあるため、会場は熱気を帯び、環境対策を含めた包装容器業界の積極的なビジネスへの取り組みが感じられる展示会となった。

調査団は、機能性・ファッション性を強調したスチール缶を展示したCorusや、新規内容物製品を展示したラッセルシュタインを見学したほか、シュマールバッハからドイツのデポジットの動向について、IZWではスチール缶リサイクルの現状について話を伺った。

連帯によってリサイクルしやすい素材を市場にーベルギー

同じくグリーンドットシステムを採用するベルギーは、首都ブリュッセル、フランドル、ワロンからなる連邦国家で、リサイクルや廃棄物処理政策は地方政府の責任で行っている。

人口は1,020万人程で人口密度が高いことから収集効率が高い一方、3つの連邦制国家に分かれているので施策を統一しにくいほか、輸入品が多く、リサイクルのデザインがしにくいといった問題もある。

ベルギーでは、ドイツのDSDシステムではコストが高すぎるとして、収集に関しては自治体に任せており、柔軟性のある仕組みを取ることによってドイツより安いグリーンドットフィーを実現している。その中核的な役割を担うのが「FOSTPlus」社である。

同社はベルギーにおける収集・分別・再生といったリサイクルを推進する任意団体で、ドイツのDSD社やフランスのEE社に相当する組織である。1993年、素材と包装材メーカー、食品・流通など大手企業26社によって協力体制が確立された。

グリーンドットフィーの価格は、連帯(solidality)の考え方に基づき、リサイクルする量、リサイクルのコスト、マーケットでの評価の3つの点から決定される。例えば、110%以上リサイクルされている紙パック/段ボールは、実際にかかるリサイクルコストがトン当たり40ユーロであるにもかかわらず、フィーは13ユーロですむ。

またプラスチックでは、PETボトルのコストがトン当たり0.8ユーロに対してフィーは0.4ユーロだが、他のリサイクルされないプラスチック(リサイクルコストはゼロ)でも、0.5ユーロのドットフィーを支払うことになっている。

つまり、リサイクルシステムが整った容器包装のみを対象にリサイクルし、リサイクルできないものは集めず、リサイクルされにくい素材は同社にグリーンマーク購入費を納めることでリサイクルの免責を得ることができるというものだ。その資金は、他品種のリサイクル費用の補助金となる。

「連帯」と称されたこのシステムは、リサイクルしやすい素材が市場で使用されるようにインセンティブが働く特性を持っている。

ドイツとのコスト比較では、ドイツの25ユーロ/人・年に対して、10ユーロ/人・年と著しい低コスト化を実現しており、その理由としては、フランスのEE社と同様に、自治体を収集・選別事業に組み入れて、業者との直接契約をせず自治体に任せていること(DSD社は直接契約)と、グリーンドットを全包装容器に販売するが、無理に全てリサイクルしようというのではなくリサイクルする品目を限定している点にあると思われる。

収集は、ガラスびん(1,000箇所に設置されたコンテナで色別に収集)、紙/段ボール(週1回または月1回の個別収集)、飲料容器(スチール缶、アルミ缶、紙パック、プラスチック容器が該当、月2回収集)を対象に行われており、スチール缶のリサイクルについては、年間8万211トンの消費量に対して6万7,975トンが回収される(84.74%)。

業界分担をベースに市場原理を導入したPRNーイギリス

一方、イギリスでは従来は分別という考え方はとらず、全量焼却・埋立の手法を使ってリサイクル・廃棄物処理を行ってきたが、EU指令に基づいて、ヨーロッパの中で唯一「PRN方式」を採用してリサイクルシステムの構築を推進している。

同国では1998年1月から「容器包装令」を施行、RecoveryとRecyclingの目標値を家庭用・産業用の全ての容器包装材に定めることとし、2001年には目標値をRecovery=56%、Recycling=18%に設定して資源の再生利用に取り組んできた。

PRNの特徴は業界分担の仕組みにある。イギリスでは容器包装について、実施すべきリサイクル率とリサイクル量が全ての業界に義務づけているが、PRNは、一定の取扱と売上を越える5,000社以上の流通・中身・容器・素材メーカーがリサイクル義務を負い、売上高に応じたリサイクル量に対して責任を負担するシステムである。

現状としては売上高の大きい流通業者の負担が大きくなっている(48%)。最終的に、各企業はリサイクルを完了した証拠として、再生製品を製造する企業(スチール缶の場合は鉄鋼メーカー)から容器包装回収手形であるPRNを有価で取得するが、その基金はその後のリサイクルを行うための費用として使われる。

各企業ではPRN方式への対応として、各社毎にそれぞれリサイクルするのではなく、業界のリサイクルの仕組みとして「Compliance Schemes」という組織をつくり、取扱高に応じた資金を各社から集めてリサイクルの支援を行っている。共同のリサイクル組織であるCompliance Schemesは、メンバー会社の替わりに法的な責任を負うとともに、集めた資金を各社のPRN購入費用に当てている。

PRNにおいて特筆すべき点は、PRNの販売自体に市場の競争原理が導入されていることだ。各素材のPRN販売価格において安いPRNが売れれば、リサイクル基金はその素材に回る。

スチール缶においては、収集とリサイクル費用がスクラップ価格を上回るので、このPRNの収入を計画的に使用することで、スクラップの経済的な流通を可能にしている。

誇るべき日本の分別収集システムを世界に発信したい

4カ国の視察を通して受けた印象として、ヨーロッパの生活様式は確かにワンウェイ容器が少なく、ドイツのスーパーマーケットの店頭では少しキズがあるペットボトルに入ったジュースが売られていたりする。

スーパーマーケットの買い物でもゆっくりした余裕が感じられ、リサイクルの取り組み一つにしても、消費者が汗水流してリサイクルに協力するというのではなく、ごく自然に生活の中でなされているようにも見える。

国によってリサイクルの方式は異なり、ドイツのように厳格な理念に基づく国で100%事業者がTake Backする国と、フランスのように自治体の収集システムを活かしつつ、分別による付加部分を事業者が負担する方式や、リサイクル可能なものだけを対象に収集するベルギー、分別の仕組みづくりで自治体に協力するイギリスなど、事業者のリサイクルへの関わりも多種多様である。

しかし、ドイツを除くと一般廃棄物はエネルギー回収での再利用が最も環境負荷も少なく良いという考え方があり、汚れたプラスチックまでマテリアルリサイクルするという発想はない。

今回は過去6回訪問したヨーロッパのリサイクル事情の動向を認識するとともに、通貨統合を含めて、ヨーロッパが新たな社会構築に向けて大きく動いていることを肌で感じることになった。

リサイクルについては、EU指令における新たな目標値が提案されている段階で、各国は事情が異なりながらも、持続的な発展を目指す意欲が強い。また、リサイクルの目標達成に有力な手段の一つとして、無駄なエネルギーを使わずにできるだけ新規の資源投入を減らし、コストを下げるという合理的な考え方が共通点として見られる。

一方、今回の視察において、日本のスチール缶リサイクル率の高さが注目され、手法や定義、数字の根拠などについて度々質問を受けた。特に、焼却缶はドイツも含めてヨーロッパでは通常の回収手段であるが、日本で行われていないことに対して驚きの声があがった。焼却前に行われる徹底した日本の分別収集方式は世界に誇るべき仕組みである。

ヨーロッパはスチール包装材の市場占有率が高い地域でもあることから、スチール缶リサイクル協会では今後、各国のスチール容器の関係者との交流を密接に図り、諸外国の事例を学ぶとともに、日本のリサイクルシステムのメリットを情報発信していきたい。

 
 

スチール缶リサイクル協会では、過去アメリカに7回(1974年、78年、82年、86年、92年、94年、98年)、ヨーロッパに6回(1976年、80年、84年、88年、92年、96年)、調査団を派遣し、海外のリサイクル事情を視察してきました。今回の派遣は7回目のヨーロッパ視察となりました。