LCA(ライフサイクル・アセスメント)からみたスチール缶
“持続可能な循環型社会”ー21世紀の社会が目指すべきテーマである。そうした背景のもと、社会全体として環境負荷をいかに減らしていくかが大きな課題となっている。さらにこの課題に対して、従来のように発生源あるいは個別製品ごとでなく、トータルでいかに環境負荷を減らすかが求められている。その手法として注目されているのがLCAである。LCAは製品製造時のみならず、製品のライフサイクル(鉄鋼製品で言えば、原料の採掘、素材製造、組立、使用、リサイクル、廃棄)トータルでの、原料・燃料の投入や製品の環境負荷(大気、水質、廃棄物等)の各項目を数量的に評価するものである。LCAが「揺りかごから墓場まで」と言われるのは、こうした背景からだ(図1参照)。今回のMY ANGLEではLCAの観点から見た鉄の取り組みとともに、LCAの研究で高い評価を得ておられ、環境省の「容器間LCA調査・検討事業」で分科会座長を務めておられる神戸大学教授(前・東京水産大学助教授)・石川雅紀氏の談話をご紹介する。
温暖化対策とLCAからみた鉄鋼材料
1997(平成9)年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組み条約第3回締約国会議)で採択された「京都議定書」では、日本は温室効果ガスの排出量を1990年比で、2010年に▲6%の削減を目標として掲げ、昨年6月に批准した。日本の鉄鋼業では京都会議に先立って、自主行動計画を策定し、▲10%の削減(さらに廃プラスチック活用で▲1.5%)を目指している。鉄鋼業は、従来から製造工程における省エネをはじめ、高炉などの製鉄設備で使用された廃熱を回収して再利用するなどの地道な努力により、着実に省エネ成果を挙げている。
さらに社会全体に向けて、より強くより高品質の製品(環境調和型製品:エコプロダクツ)を積極的に開発して供給することによって、たとえば自動車の燃費向上(図2参照)に見られるように、社会全体における環境負荷の低減に製品供給を通じて幅広く寄与している。
(注)「グリーンドットシステム」とは、中身メーカーが事業者責任を負い賦課金を支払う手法。
何にでも何度でもリサイクルできる鉄
鉄は循環型材料として他素材と比べて先導的な素材だ。製品として社会に提供され、役割を終えて回収されたあと、高温で溶かすことで再び再び鉄に戻り、次にはビルや橋、自動車、飲料缶などへ生まれ変わる。そしてビルや橋も、何十年かの後に、また飲料缶にも戻るような他素材にはない特徴がある。何にでも何度でもリサイクルできる“マルチなリサイクル性”が鉄の大きな特色である(図3参照)。
ドイツのデポジット導入と日本の優れた分別収集“リサイクルは形を変えたリユース”
スチール缶は商品パターンとしては極めて短寿命のワンウェイ容器である。したがってスチール缶をLCA的観点から見れば、できるだけ低いエネルギーで多く回収・リサイクルするという視点が一層重要となる。
リサイクルで先進国のヨーロッパではそれぞれの国情に合った手法で取り組まれているが、リサイクルに関しても理念と理論を重んじる傾向が強いドイツではグリーンドットシステム(注参照)で高いリサイクル率にもかかわらず、リターナブル容器保護のためワンウェイ容器にこの1月からデポジットを導入した。デポジット方式は社会コストが高くつき、リサイクルシステムとしてはその効果が疑問視されている。同じヨーロッパでもベルギーではスチールについて安いグリーンドットフィー(図4参照)で高いリサイクル率を実現しており、“リサイクルは形を変えたリユース”とも言える。
図4.スチールのグリーンドットフィー比較(1ユーロ=118円換算)
ユーロ/kg 円/kg
ドイツ 0.286 33.7
フランス 0.0206 2.43
ベルギー 0.0599 7.07
先にスチール缶リサイクル協会が実施した欧州リサイクル調査で訪欧の際、日本の分別収集やスチール缶のリサイクル率について多くの質問を受けたが、分別収集方式やリサイクル率の高さ(2001年85.2%)に驚きの声があがった。
現在、日本では環境省で「容器間LCA調査・検討事業」が推進されており、今後、情報が公開される予定である。その一環として循環型材料である「鉄」の良さが明らかになり、幅広く浸透していくことであろう。
神戸大学教授(前・東京水産大学助教授) 石川 雅紀
LCAをより有効なツールとして活用していくための視点
LCAに、私は三つのポイントがあると考えている。
第1は従来のような発生源対策の捉え方でなく「製品」に注目しているという点である。日本ではこの点が案外見過ごされている。欧米で言う「プロダクト・ポリシー」だ。製品に着目した結果として「揺りかごから墓場まで」となる。
第2は地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨といった環境問題を含めて“包括的に考えるべき”という点である。象徴的な例がフロンだ。フロンがオゾン層の破壊をもたらすため、HFC(ハイドロフルオロカーボン)が代替フロンとして採用されているが、実はHFCは温暖化効果が非常に高い(CO2の1300~3300倍)ことが判明している。このようなトレードオフを含むさまざまな課題を含めて包括的に考える枠組みとしてLCAの手法が有効に活用できる。
この手法を推進していくに際して、現実問題として然るべきデータが把握できにくい場合に直面する。その対応としてヨーロッパでは適用可能と考えられる一応の最善のデータ(ベストアベイラブル)で検討を進めるスタイルが採られている。日本はこの点を見習うべきだ。そうした多くの問題を包括的に判断して、製品ごとの客観的総合評価をシンプルに分かりやすい形でユーザー・サイドに提示できるようにするのがツールとしてのLCAの目標であり、重要な役割と考えている。
第3はLCAにおける経済性をどう扱うかという問題だ。意思決定のために必要となる要素は経済性、環境、社会である。海外では経済性と環境による二軸評価の手法が実際に採用された例がある。また日本では経済性と環境の相関関係を限界削減費用法で扱う手法も考えられている。これらの手法によって外部不経済などが把握可能となり、その結果、製品購入時の判断基準が明確になる。直接の応用としては公共調達、グリーン購入などへの寄与が期待される。特に環境会計の管理化に効果がある。
最後に、環境省の「容器間LCA調査・検討事業」で分科会の座長を務めているが、今年度から3年間の検討期間に、LCAがさらに有効なツールとして活用されるよう努めていきたいと考えている。(談)
1953年兵庫県生まれ。東京水産大学水産学部食品生産学科助教授を経て、2003年4月より神戸大学大学院経済学研究科教授。食品工学、環境システム分析を専門とし、経済産業省の「製品等ライフサイクル環境影響評価技術開発」(通称LCAプロジェクト)助言委員会の委員として活躍。また、本文に掲載のように、環境省の「容器間LCA調査・検討事業」で分科会座長を務める。著書