市民・行政・事業者の パートナーシップで循環型社会実現を目指す
持続可能な社会をつくる元気ネット
循環型社会の実現を目指す「元気ネット」
NPO法人「持続可能な社会をつくる元気ネット」(以下、元気ネット)の代表的活動の一つである「市民が創る環境のまち“元気大賞”」(以下、元気大賞)では、地域コミュニティの中で循環型地域構築を目指し環境問題の改善に取り組んでいる団体の活動プロジェクトを募集・表彰している。表彰式は、前年度の大賞受賞団体が活動している地域に「エコツアー」として赴き行われる。同時に参加者で全国サミットを開催し、地域同士の交流、ネットワークの拡大に努めている。応募団体はNPOなどの市民団体だけでなく、行政や各地域で環境問題に取り組む企業、商店などの参画もあることから、元気ネットは「市民・行政・事業者」によるパートナーシップで結束されたネットワークと言える。その活動が認められ、今年「環境保全功労者(団体)」環境大臣表彰を受賞した。
ごみを出す私たちは、みんな“ごみ仲間”
このように市民・行政・事業者によるパートナーシップはどのように確立されてきたのだろうか。
元気ネットの前身である「元気なごみ仲間の会」が結成されたのは1996年。前後して日本では、廃棄物の削減と再資源化を目指した容器包装リサイクル法が施行された。しかし法施行を前に、資源物の処理方法をめぐり行政と事業者、そして市民の間で軋轢があった。元気なごみ仲間の会の初代代表で、現元気ネット顧問・内閣府原子力委員会委員の松田美夜子さんは当時をこう語る。
「私はかつて雑誌のリポーターとしていくつも現場を駆け回り、行政が苦労してごみ処理を行っている実態を目の当たりにしてきました。その時に、メーカーも消費者ももっとごみに関心を持つべきだと思いました」
法施行後の争いを防ぐため、行政・事業者もメンバーに加えた市民活動団体「元気なごみ仲間の会」が発足。松田さんは推されて代表になった。
「ごみを排出するのはみんな一緒です。だからやみくもにお互いを批判するのではなく、みんなでひとつになってこの問題に取り組む“仲間”になろうという姿勢で、全国のごみ問題を抱えていた個人・団体に情報交流ネットワークの構築を呼びかけました。それ以来、常に市民・行政・事業者と手を携えてともに行動してきたことが、今の元気ネットの根幹になっていると思います」
観光旅行では体験できないエコツアーの魅力
ネットワークづくりを目的としたエコツアーや全国サミットではどのような交流があるのだろうか。元気ネット事務局長の鬼沢(きざわ)良子さんは語る。
「2004年度に大賞を受賞した、『地域づくり工房(写真1)』(長野県大町市)のエコツアーは忘れられないものになりました。受賞が決まった後、地域づくり工房ではエコツアー受け入れのための連絡会を、地元住民、商店などと共同で立ち上げ、自発的に参加者の受け入れ態勢を整備してくれたのです。この働きかけは、地元団体同士での新たな連携を生みました」
大勢の参加者を受け入れるため、地域づくり工房では他の地元団体の協力を仰ぎ、パンフレットの制作や見学コースの振り分けなど事前に設定していた。現地視察がスムーズにいくようにしっかりと事前配慮していたおかげでエコツアーは大成功を収めた。
また、全国サミットでは「助成金だけでなく、自分たちの活動をコミュニティビジネスとして定着させ、継続・発展させていくことが大事」という意見が多くの参加者から出た。過去の応募団体の実例を見てみると、食糧残渣などの有機物を利用したバイオマスエネルギーの有効利用、堆肥の製造・販売やそれによって作られた農作物の販売などがあった。経済の流れを地域社会の中に取り入れることが地域の活性化につながり、持続可能な循環型社会の形成へとつながっていく。
国境を越えた相互交流によるネットワーク形成
元気ネットでは数年前から外国と相互交流を行い、アジア全体の環境問題に、日本を代表して取り組もうという活動を始めている。
2005年度にはJBIC(国際協力銀行)の調査を受託する形で、「タイ地域環境活動調査」を1年間かけて実施。日本とタイ、両国間でお互いの環境活動の情報を共有しネットワーク化することを目的に期間内に4度の相互交流を行い、日本は、生ごみなど有機資源の堆肥化パイロット事業(写真2)として技術指導を受けた。元気ネット理事長の崎田裕子さんは語る。
「『タイ地域環境活動調査』のように、座学ではなく体験して得たものを、実際に自分たちの地域の中で実践しながらライフスタイルの見直しをしていく。この一連が環境学習につながっていきます」
無限に広がるネットワークの輪
元気ネットでは、さらに新たな試みとして、今年の元気大賞の開催について、「エコ・ジャパン・カップ2007」という環境ビジネスコンテストと連携して実施することとした。こちらは、ベンチャー企業、アーティスト、市民、団体といった幅広い対象の中から事例を募集し、環境共生・循環型経済社会を再生し、環境と経済が好循環する仕組みを世界に発信していくことを目的としている。
「先進的技術だけで環境問題を解決しようとするのではなく、より多くの人に環境への関心を持ってもらうためにも、これからはライフスタイルや、時にはアートなど“市民”による取り組みと両輪で環境を改善していくことが重要だと思います。そのためにも、幅広い団体が応募対象となるエコ・ジャパン・カップと連携することを決めました」(崎田さん)。
「約10年間活動を続けてきて、最近では事業者とも3Rに関するフォーラムを開けるまでになったのでとても感慨深いです。これからも市民側を代表したシンクタンクであるという自覚を持ち、各方面の方々との交流を大切にしていきます」(鬼沢さん)。
人と人との結びつきを大切にし、地域をそして国境を越えてネットワークづくりに腐心してきた元気ネット。常に市民・行政・事業者と手を携えて、パートナーシップを持って活動を続けてきた松田さんの志は、10年経った今でも着実に息づいている。