どんな科学の原理で自分の身の回りは動いているのかを学ぼう
東海大学教育開発研究所長
NPO法人ガリレオ工房理事長 滝川 洋二氏
科学は「難しい」「硬くてつまらない」と言う方は多いはずです。でも最近、科学者を主人公とした小説やそれを原作としたテレビドラマや映画が大きな話題となり、科学に対する見方が変わってきました。そのきっかけの一つがフジテレビのドラマ『ガリレオ』にあったと思います。このドラマで私は劇中の実験を考える監修を務めました。
第2シーズン最終話では、宇宙探査機が惑星などの天体の公転速度や重力を利用して加減速や向きを変える「スイングバイ航法」を再現する実験が行われました。これは失敗する確率が高く、まず実験シーンだけを撮影し、実験中の福山雅治さんや吉高由里子さん、渡辺いっけいさんのセリフは別撮りだと思っていました。しかし監督は1シーンで撮影しました。実験が成功した瞬間の「すごい!」という表情をリアルに撮りたかったからです。出演者は難しい科学用語をすらすら覚え演技されるのですが、「この言葉のほうがわかりやすいのでは?」と相談に来られたりします。役者魂を感じます。私もわかりやすい言葉を考え、実験が失敗してNGとならないように調整し、固唾を飲んで見守りました。素晴らしい作品はこうしてつくられたのです。
いま「科学は楽しい」という期待感が高まっています。誰もが手軽に家庭で実験を楽しむ親子が増えています。ガリレオ工房では、そんな実験を数多く紹介してきました。しかし本来は学校で先生が指導しながら、科学実験をできる仕組みにしてほしいと願っています。日本科学技術振興財団と国立教育政策研究所の調査によれば、日本の公立小学校の理科の授業で児童1人が実験で使える教材費は年間300円台です。ビーカー1個も買えないという非常に厳しい現状があります。
実験は子どもたちの世界を広げてくれます。実験は入口なのです。入口で関心が深まってきたら、科学の本を読む「理科読(りかどく)」をおすすめします。実験の原理が社会でどのように使われているのか、自分の身の回りはどんな原理で動いているのかを学ぶことができるからです。これは子どもを全員ものづくりに向けて育てていくことを目的にしているわけではありません。社会全体を良くしていくためには、科学が社会の中でどんな役割を果たしているのかを理解できる科学の素養を持った人が必要だからです。皆さんどんどん視野を広げ、たくさん科学を楽しんでください。
たきかわ・ようじ 1949年岡山県生まれ。埼玉大学理工学部物理学科卒業、国際基督教大学博士課程修了。教育学博士。79年国際基督教大学高等学校教諭、2006年東京大学教養学部附属教養教育開発機構特任教授、10年東海大学教育開発研究所教授を経て現職。1986年に設立したガリレオ工房などの活動を通じ理科教育の改善に努める。2005年文部科学大臣表彰を受賞。著書に『理科読をはじめよう』(岩波書店)、『科学おもしろ絵事典 理科のふしぎがわかる 楽しく学べる原理・法則』[監修](PHP研究所)ほか多数。TBSテレビ『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?』の科学監修、NHKドラマ『実験刑事トトリ2』などの監修を務めた。