富士山世界に誇る日本のシンボルを美しく
清掃活動は”気づき”をもたらす
富士山には静岡県側に3カ所、山梨県側に1カ所の登山道がある。それぞれに特徴があるが、山梨県側の吉田・河口湖口は東京方面から近く、年間約23万人の登山者が訪れ、最も賑わう。
富士山の環境を守るため、山梨県では1972年から美化活動が行われている。県や県観光連盟、県新生活運動協会、山梨日日新聞社、山梨放送などの提唱によって、(公財)富士山をきれいにする会が結成され、これまでに延べ131万2,549人が清掃活動に参加し5,017tのごみを回収処理。2002~06年には県山岳連盟が五~八合目の登山道を清掃し6.1t、2007~08年には静岡県と合同で山頂清掃活動を実施し1.6tのごみを回収処理してきた。またNPO法人富士山クラブは2004年から山梨・静岡両県にまたがり清掃活動を続けている。
「おかげさまで五合目以上の登山道からごみが消えました。しかし、よく見ると陶器やガラスの破片が散らばっていますし、大雨などで土砂が流されるとかつて埋められたごみが出てきます。一方、五合目以下の山麓では、残念ながら不法投棄が絶えません」(山梨県観光資源課・滝島啓介氏)
山麓の不法投棄対策として、富士山レンジャーなどが監視パトロールを続け、未然防止と早期発見・拡大防止、撤去・適正処理を実施している。富士山レンジャーが発見したごみの内訳はタイヤ18%、パソコンやエアコンなど18%(テレビを除く家電)、テレビ11%の順に多い。散乱分布を見ると、これまで道路から離れた山林に投棄する事業者による大量廃棄型であったが、最近では道路沿いに投棄する個人による少量廃棄型の傾向にある。投棄のピークが4月と10月で、引越やタイヤ交換のシーズンと重なる。一般消費者が乗用車などで運び、不法投棄しているものと見られる。
不法投棄されたごみは、不法投棄した人が片づけるのが大原則だが、県は市町村、NPOなどと連携して、長期間放置されているごみの撤去活動を実施している。2011年8月~翌12年7月、県は富士山クラブと県カーリサイクル協同組合などと協働し、鳴沢村の山林内に放置されていた3,597本の廃タイヤを計9回の活動で全て撤去した。
「規模が小さな市町村では処理費が確保できず、かつてはボランティア清掃したくてもできないという状況がありました。今は”自分たちが守る””一緒に取り組もう”と盛り上がっています。回収したごみは資源循環されています。清掃活動はライフスタイルを見直す”気づき”をもたらしてくれます。しかし、ごみの持ち帰りにも限界があります。観光地としての分別回収の仕組みづくりが求められています」(富士山クラブ・青木直子氏)
「富士山憲章」の精神に則って
静岡県には、駿河湾や伊豆半島の大パノラマが展望できる富士宮口、火山灰地を登る健脚向きの御殿場口、小富士までのハイキングもできる須走口の3ルートがある。年間の登山者は富士宮口で約8万人、御殿場口で約1万人、須走口で約4万人にのぼる。清掃活動は1980年に富士山をいつまでも美しくする会が発足して以来、登山道ごとに毎年行われている。美しくする会は富士宮市、御殿場市、小山町が2年ごとに持ち回りで事務局を担当し、民間企業など58団体の会員で構成されている。長年の活動によって山梨県側と同様五合目以上の登山道のごみ問題は改善されている。
「最近は初心者やアジア系など外国人登山者が増えています。ごみは持ち帰りが原則ですから、戸惑われる方が多いようです。2016年には富士宮市に世界遺産センターが開所する予定です。世界遺産にふさわしい景観を維持していくためのシステムづくりが始まっています」(富士宮市・深澤祥一朗氏)
富士山を訪れるときのマナーとルールについて、県は日本語、英語、中国語、台湾語、韓国語、ポルトガル語の6カ国語で冊子を作成し無料配布している。また県が事務局を務め、富士山の環境保全に取り組む団体・個人で構成されている、ふじさんネットワークでは学習リーフレットを2010年より作成し、県内の公立、私立、国立の小学校、特別支援学校小学部の全ての6年生に無料配布している。
「子どもたちに親しみや興味を喚起し、自然を守り、大切にする心を育てる狙いがあります。自分のイメージしている富士山を描く設問を設けたり、クイズの正解をじゃんけんの三択方式にするなど、楽しみながら学べる内容になっています」(静岡県自然保護課・水野宏一氏)
一方、五合目以下の山麓ではごみの不法投棄が絶えない。県は2006年から年2回(現在は2月と6月)、ボランティアを募集し「富士山ごみ減量大作戦」を実施している。
「ごみが捨てられている箇所には、さらにごみが捨てられてしまいます。近くに行っても富士山は日本一美しい山だと言われるよう、道路や公園を中心とした清掃活動を行っています。大事なのは拾っている姿だと思います」(同課・大川慎一氏)
しかし、こうした対策は対症療法に過ぎないという。静岡・山梨の両県は1998年に「富士山憲章」を制定した。その精神を大事にして、今後とも富士山を守っていきたい考えだ。
「富士山の恵みは、特色ある地域社会を形成し、潤いに満ちた文化を育んできました。日本のシンボルである富士山を世界に誇る山として、後世に継承するための取り組みの一つとして清掃活動があります。状況の変化に対応しながら多くの方々と協働し、継続していきたいと考えています」(同課・渡辺光喜氏)