スチール缶リサイクル協会の提言
「協働型集団回収」のすすめ「協働型集団回収」とは
再生資源の市場性を積極的に活用し、地域の事情に合わせ、地域住民(集団回収実施団体)・資源回収業者・自治体が相互の役割を尊重し、資源がなく国土が小さい日本において、資源の有効活用と最終処分場延命化ならびに物の大切さの再認識という、社会的な目的を達成していくための家庭系資源ごみ回収の一つのシステム。
多様な回収ルートの確保
協会では、1970年代から将来において容器包装ごみの排出量増大が大きな社会問題になることを懸念し、自治体・事業者・有識者などと連携協力して使用済みスチール缶を主体に分別収集技術の調査研究に取り組み、さまざまな支援を行ってきた。またスチール缶の再資源化については、鉄鋼メーカーに再資源化への研究・実験と受け入れ体制の整備をお願いし、国内における使用済みスチール缶の資源循環システムの構築と定着を図ってきた。
かし家庭から排出されるごみは増大の一途をたどるとともに、バブル崩壊によるスクラップなど静脈資源の市況暴落により循環システムの維持が困難になったことで、容器包装ごみの処理が緊急の課題となった。こうした背景の下、容器包装リサイクル法(容リ法)が1995年に公布され、1997年の一部施行を経て2000年に完全施行された。容リ法では、消費者は分別排出・自治体は分別収集(行政回収)・事業者は再資源化という三主体の役割が明確化されるとともに、初めて拡大生産者責任という事業者責任が導入され、三主体一体となって容器包装ごみの削減に取り組む仕組みが構築された。
容リ法の施行により、分別収集量やリサイクル率が増加(図1)、ごみの総排出量は2000年をピークに継続的に減少(図2)し、最終処分場の延命化が図られ、一定の成果をあげている。そして、さらなる3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進、リサイクルに要する社会全体のコスト効率化、全ての関係者の連携協働を図るため、容リ法は施行後10年を経て2006年に改正されたが、その審議では多様な回収ルートが確保されるよう集団回収などを促進すべきとの指針が示されていた。
80%超の自治体が集団回収に関与
スチール缶リサイクル協会が第一次自主行動計画で一定の成果をあげることができた背景には、長年にわたり容器包装の散乱防止と再資源化に関するさまざまな活動を展開してきた経緯がある。主な出来事をダイジェストで紹介する。
協会はこれまで自治体の最終処分場逼迫問題から、自治体と協力連携して家庭ごみの分別収集を推進し、容リ法制定に大きく関わってきた。前回の容リ法見直し審議の過程を踏まえ、次世代のより良い仕組みを模索するため、2005年秋に集団回収の「民間主体回収の可能性に関する調査・研究事業」を立ち上げ全国調査を開始。5年間にわたる調査結果を通して、集団回収は集団回収実施団体と民間収集事業者との二者のみの関係(民・民だけによる集団回収)から、集団回収実施団体・民間収集事業者・自治体の三者によるものに発展してきていることを明らかにした(図3)。
協会が全国の市区を対象に実施した集団回収にかかわるアンケートでは、80%を超える自治体が「何らかの形で関与し実施している」と回答。集団回収実施団体・資源回収業者・自治体の三者連携による集団回収を従来型の民・民だけによる集団回収と区別するため、協会では「協働型集団回収」と命名した。
スチール缶も併せた多品目回収
集団回収の実施割合を人口規模別で見ると、50万人以上の大都市が96.9%で最も高く、3万人未満が50%となっている。人口規模の小さい自治体の実施割合が低い傾向にあるのは、地域住民によるコミュニティが比較的安定しており、従来から住民と回収業者の関係が構築されているためで、自治体の関与を必要としていないことも一因と推測される。
また集団回収の対象品目については、古紙類(新聞・雑誌・段ボールなど)を対象としている自治体が99.2%と最も多く、スチール缶やアルミ缶、鉄くず類、生きびん、ペットボトルは分別収集の実施割合が高い。
なおスチール缶は96.0%の区市で分別収集されている一方、集団回収の対象品目としている区市も、集団回収実施区市数のうち55.7%と半数を超えている。スチール缶は、地域によっては取り扱う業者が必ずしも多くないものの、スチール缶も併せて多品目回収を推進している自治体が多いと言える。
インセンティブとなっている奨励金
自治体の集団回収への関与内容については、実施団体への奨励金(※1)交付が最も多く93.3%の自治体が実施している。次いで集団回収についてのPRや広報が40.8%、回収業者への補助金(※2)交付が28.0%だった。
奨励金は、資源価格が下がり収益金が見込めない場合にも、実施団体が回収を継続するインセンティブとなるため、多くの自治体が集団回収の安定的な継続策として交付している。金額は1kg当たり5円が中心(図5)。なお、資源物の売却金(図6)を自治体が受け取っている場合は、一般的に奨励金の金額は高く設定されている。
補助金については、特に市況が悪化した時期や、処理費を支払わなければリサイクルできない品目など、回収しても利益が出ない場合に支給されることが多い。そのため品目や時期が限定される傾向があり、支給金額は1kg当たり3円未満が半数以上を占め比較的少額だ(図5)。
※1 奨励金:自治体から実施団体へ回収量などに応じて支払われる助成金。
※2 補助金:自治体から回収業者へ燃料費などとして支払われる助成金。
分別収集の補完システムとして機能
容リ法の施行によって、ペットボトル・プラスチック製容器包装なども分別収集の対象となり、分別収集は多品目になった。このように、現在では分別収集においてほとんどの資源物が収集されていることから、集団回収を分別収集の「補完システム」と位置付け、併用している自治体が最も多い(図7)。
しかし、逆に集団回収を資源物回収の「メインシステム」と位置付けて推進している自治体もあり、その数は増加傾向にある。集団回収をメインシステムとする場合は、全域の住民をカバーできる住民組織を形成させることがポイントだ。
「協働型集団回収」のメリット
社会的コストの低減
資源ごみの分別収集には、収集運搬費(人件費、燃料費、車両維持費など)や中間処理費(選別・処理のための人件費、設備費、光熱費など)の費用が発生するが、これは国民と事業者が納めた税金でまかなわれている。一方、集団回収は収集運搬も中間処理も民間業者が行い、自治体が奨励金や補助金を拠出したとしても、自治体は社会的コストの削減を図ることができる。協会によるヒアリング調査では、集団回収は分別収集に比べ3分の1から10分の1程度のコストであることがわかった(図8)。できる限り資源物を民間で処理することにより、自治体の財源をごみ処理以外の福祉や公共整備などに利用することが期待できる。
資源物の品質向上
集団回収では住民同士や回収事業者が分別排出を指導することで顔が見えるため、分別ルールが浸透しやすく、排出者の意識向上につながる。そのため、一般的に協働型資源回収の資源物は、分別収集よりも品質が非常に高いと評価されている。資源物の品質が良くなると、リサイクルできる資源物が増え、資源物の市場価格も向上する効果も現れる。
地域コミュニティの活性化
集団回収を通じ住民同士が協力関係を構築するきっかけとなっている。例えば親子や、老人会と子ども会が一緒に作業を行うことで世代間の交流が生まれてきている事例もある。また奨励金や売却金を活用して、PTAでは小学校の備品の購入、自治会や町内会ではお祭りやイベントに活用するなど、地域コミュニティの活性化に役立っている。
環境意識の向上
集団回収を子ども会やPTAで実施する場合、子どもが回収・選別に参加することによって、リサイクル意識が根付き、資源化ルートや正しい分別方法を学習する環境教育の一環として活用されている事例もあった。子どもの環境意識の向上は、子どもが家庭に持ち帰ることで大人の意識にまで影響を与える波及効果も生んでいる。
「協働型集団回収」の普及を目指して
「協働型集団回収」は地域住民(集団回収実施団体)・資源回収業者・自治体の三者がそれぞれの役割を果たし、知恵を出し合い共に汗を流しながら共通の目的であるごみ減量・資源化のために連携していくことが重要になる。協働型集団回収を持続している事例では、次のような条件が備わっていた。
① 多品目回収であること
② 地域に世話人的なキーパーソンがいること。キーパーソンがいない場合は、自治体が探し出し協力支援すること
③ 実施団体の所在地の近隣に回収業者が立地していること。近隣に回収業者が立地していない場合、または実施団体が回収業者を知らない場合は、自治体が協力して回収業者を斡旋すること
④ 自治体が実施団体に奨励金を交付し、実施団体へのインセンティブにつなげること
⑤ 資源物の市況が悪化し利益が上がらない場合は、自治体が回収業者への補助金などの支援を行うこと
協会では、これらの調査・研究の集大成として『集団回収マニュアル~協働型集団回収のすすめ~』を2010年10月に発行。「協働型集団回収」の解説と普及のため、全国各地で「協働型集団回収セミナー」を開催している。東京都、京都府、沖縄県、北海道、岡山県、福岡県で実施したセミナーでは、多数の自治体関係者が参加し情報・意見交換が行われた。
た「協働型集団回収」の推進のため、実践的環境教育に資する集団回収実施の学校への支援やスチール缶集団回収実施団体への支援なども行っており、多様な回収の仕組みの一つである「協働型集団回収」の普及拡大に向けたさまざまな活動を、社会貢献の一環として今後も展開していく。