静脈資源を循環させる制度設計
慶應義塾大学経済学部 教授 細田 衛士氏
夫婦共稼ぎのため、私も主夫業をやっています(笑)。家庭から出るごみの約60%(容積比)は容器包装ですから、一市民としても3R(リデュース・リユース・リサイクル)の重要性を身近に感じてきました。
ごみをいかに減らすか。日本は最終処分場の枯渇に直面し、廃棄物の処理問題に悩んできました。その問題を解決する手立てとして、3Rが推進されてきました。国は廃棄物処理法を改正するとともに、資源有効利用促進法や容器包装リサイクル法など個別リサイクル法を施行し、3R推進のための体制をつくり上げてきました。
その結果、容器包装では消費者による分別排出、自治体による分別収集、事業者によるリサイクルという日本型役割分担が定着しました。分別収集を実施する自治体と分別収集量は増加し、ペットボトルやプラスチック製容器包装の収集量が大幅に拡大しました。その中でもスチール缶は89.1%という高い水準のリサイクル率を達成しており、リサイクルの優等生と言っても過言ではありません。こうしたリサイクルの進展もあり、最終処分場の残余年数に一定の改善が見られます。
ところが、最近これまでになかった問題が見えてきました。それは静脈資源の海外流出です。
例えば使用済みペットボトルは国内で資源として使われるのではなく、大量に輸出されている現状があります。そのため国内の優れた技術によってペットボトル原料にリサイクルできるにもかかわらず、新たに原油を買ってペットボトルを生産しCO2を排出しています。消費者の手できれいに分別され、税金を使って自治体が集めた貴重な資源が、私たちの手元に残らないのです。資源循環のグローバル化は避けられませんが、本来日本で確保しておきたい静脈資源が需要力の強い国々に吸収されているのです。また発展途上国で歩留まりの悪い形で不適正な処理が行われ環境汚染が生じた場合、日本が汚染輸出国として非難される恐れもあります。市場原理では済まされない問題です。
将来、資源採掘量が過去の最大量よりも徐々に小さくなっていく天然資源のピークアウトによって、資源制約が強まっていきます。これはレアメタルだけでなく、ベースメタルである鉄も含まれます。いかに日本国内で静脈資源をしっかりと循環させ有効利用していくか。そのためには全体のコストバランスの取れた効率的な回収システムや、繰り返しリサイクルしてもダウングレードしない高品質なものづくりを実現する技術開発なども必要となってくることでしょう。使用済み製品・容器包装・素材を廃棄物として捉えるだけでなく、天然資源を代替し得る資源として捉える戦略の下、真の意味で資源循環型社会を構築するための制度を設計していきましょう。(談)
ほそだ・えいじ/1953年東京生まれ。
77年慶應義塾大学経済学部卒業、82年同大学経済学研究科博士課程修了。83年英国マンチェスター大学にブリティッシュ・カウンシル・スカラーとして留学。94年慶應義塾大学経済学部教授。2001~05年同大学経済学部長。環境省中央環境審議会委員、経済産業省産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会委員などを歴任。06年からリデュース・リユース・リサイクル推進協議会会長を務める。専門は環境経済学、理論経済学。著書に『資源循環型社会-制度設計と政策展望-』(慶應義塾大学出版会)、『環境経済学』(共著、有斐閣)、『グッズとバッズの経済学』(東洋経済新報社)など多数。