ごみが流れつかないなぎさを目指す
かながわ海岸美化財団
官民協調の仕組み
かながわ海岸美化財団は1991年4月、神奈川県と相模湾沿岸13市町などによって個別に行われていた海岸清掃を一元化し、海岸の清掃と美化を進める広域拠点として設立された。清掃活動については県と13市町から同財団が委託され、横須賀市走水海岸から湯河原町湯河原海岸に至る約150キロの自然海岸と河川河口部、海岸砂防林内の区域で行っている。1991~2009年までの19年間に処理した海岸ごみの量は11万5,703トン(鎌倉大仏に換算すると1,008体分)にのぼる。清掃費は県と市町が半分ずつ負担しているが、各市町は地域の海岸特性に応じた清掃の頻度と費用を選択できる仕組みとなっている。20年間の活動を振り返り、森田茂實代表理事は次のように語る。
「海岸管理者である県は、海岸ごみの約7割が河川から流れ込んでいることを踏まえ、広域自治体の立場からも理解を示し、費用を継続的に負担しています。一方、13市町は地域振興や住民利用、環境美化などの目的で負担していますが、その背景には湘南の海が持っている魅力を守るために自治体が一定の予算を使ってもいいという住民の理解があります。その中で当団体は委託された清掃事業を効率的に実施するとともに、県と市町が清掃予算を計画する際の調整にも加わっています。例えば市町側から財政が大変厳しくなったので、もう少し費用を抑えられないかという声も多く、いろいろ工夫を重ねてきました。地域ボランティアの清掃協力も大きな力になっています。こうした官民挙げての協調関係があるからこそ継続できたと考えています」
広がるボランティアの輪
海藻を除くごみの回収量は年間2,000トン前後の横ばいで推移しているが、同財団では清掃作業仕様の細分化や海岸に応じた作業員構成の見直し、海岸パトロールの強化、清掃機械の改良開発などの効率化を図ることで、清掃費を1991年の4億円から2億円(2010年)に半減させている。一方、美化活動は基本財産の利息や寄付、会費 など自主財源でまかなわれている。一斉ビーチクリーンの実施や美化団体交流会の開催など、さまざまな啓発・支援が行われた結果、ボランティア清掃参加者は1991年の5万7,000人から2010年には2.5倍の約15万人へと増加している。同財団でボランティアの調整などを務めている柱本健司氏は次のように語る。
「夏の暑さや冬の寒さにも負けず、ボランティアの皆さんは丁寧に清掃してくださいます。それにもかかわらず海岸ごみは減りません。最近では河原でバーベキューを楽しむ人たちが排出するごみが流入しています。ごみを減らすためには、川を通じて海とつながっている陸域の皆さんの協力が不可欠です。これからも広域的な連携を深めていくためのお手伝いをしていきたいですね」
国の施策充実を求めて
同財団は設立20周年を機に、これまでの海岸美化を見つめ直し、これからの20年に向けた一歩を踏み出している。啓発活動については『なぎさのハンドブック』を作成し、河川上中流域の学校を中心に同財団職員が講師となり出前授業を行う「学校キャラバン」を展開。2011年10月には「なぎさのごみフォーラム」を開催し、清掃費の確保とごみ処理の充実を図るための望ましい清掃の仕組みや、ごみの発生を抑えるための山・川・海へ通じる生活圏全体の取り組みについて意見交換を行った。さらに2012年3月をめどに20年間の実績やノウハウを記念誌としてまとめ全国に向け情報発信し、問題解決の礎にしたい考えだ。
現在、海岸の環境悪化や美しい浜辺の喪失などが全国的にも問題になっている。2009年4月には海岸漂着ごみの円滑な処理と発生抑制に関する国の対策として、海岸漂流物等処理推進法が施行された。こうした中、森田代表理事は次のように展望を語る。
「海岸美化の取り組みを継続・発展させるため、国の財政措置など施策のさらなる充実を求めていきます。海岸漂着物の処理については、国が仕組みづくりを奨励するだけでなく、広域行政の立場から責任を比率で示すなど、清掃費を負担してほしいと考えています。神奈川県と同じような協同の仕組みができれば、清掃活動を継続的に行うシーズが全国各地に生まれるはずです。どうして海岸にごみがたくさんあるのか、どこから来るのか、どうしたら減らせるのかを考え、今後とも多くの皆さんと共に海岸美化に努めていきます」